「じゃがいも警察」にも「異世界文字警察」にも負けないファンタジー世界のリアリティとは何か。

 こんなツイートがあって、

 こういう言及がついて話題になっていた。

 該当作品はいまのところ未見だが、これはむずかしい問題である。

 つまり、「異世界ではどのような文字を使い、言葉を喋っていることにすれば良いか」という話なのだろう。

 「漢字を使うと中国になってしまう」とはいかにも誤解を生む理屈だが、「中華風異世界だから中国語を使わせるのが正解」とは必ずしもいえないということにはわたしも賛成する。

 そもそも異世界の住人が日本語を話しているのがおかしいわけで、これは日本語ユーザーの視聴者向けに「翻訳」されていると考えるのが当然だろう。

 となると、話し言葉は「翻訳」して表記していることに違和感を覚えない視聴者が、文字に対してだけは「翻訳」されて日本語表記になっていてはおかしい、と考えることはむしろ奇妙なことなのではないかという理屈も成り立ちそうだ。

 つまり、話し言葉は「翻訳」されていて日本語になってはいるが、本来、異世界の言葉を喋っているはずだということなのに、文字は「翻訳」されていないとすると、ほんとうに漢字を使ってやり取りしていることになる。あくまで「中華風」の異世界であるに過ぎないのにそれはおかしいだろう、ということをいいたいのだと思う。

 もちろん、「中華風」の異世界で漢字を使用しているからといって何もおかしくはないと考えることもできる。

 そもそも「地球とまったく同じ見た目の人々が同じように暮らす異世界」という時点でご都合主義的なのだから、その先で整合性に拘ってもしかたないというのは、ひとつの良識だろう。

 つまりは、異世界の独自性にどこまで拘泥するか、するべきなのかということなのであって、一概に日本語で書くのは愚かで、漢字で書くのは正しいということにはならないのである。

 当然、逆もまた無条件には成立しない。「異世界」という存在そのものが架空であるわけで、そこでどこまでリアリティを追求するべきなのかということはひとつの解を見いだしようがないものだろう。

 重要なのは、むしろ「雰囲気」とか「作中での整合性」でしかないのではないか。

 一定のリアリティの追及を当然とする姿勢が行きすぎるといわゆる「じゃがいも警察」のような不毛さがただよう。

 そして、また、ここら辺のことについてはおそらく先人たちも迷ってきたのではないか。

 たとえば、『グイン・サーガ』の世界には「パピルス」や「羊皮紙」があるようである。また、しばしば魔法の文字として「ルーン文字」が登場する。

 純粋にリアリティを考えればおかしいといえばおかしい。

 また、『十二国記』の世界では、どうも漢字を使っているらしい描写がある。これもおかしいといえばおかしいのだが、この場合は『十二国記』世界の誕生の秘密そのものが関わっているようでもあって、何ともいえないところだ。

 面白いのがアニメ版の『精霊の守り人』である。

 この作品では、東洋風の世界であるにもかかわらず、あえて第一話から「メンテナンス」とか「フォーメーション」という横文字を入れてきている。

 挑戦的でかつ挑発的、大胆な表現だ。

 おそらくその当時も賛否はあっただろうが、個人的には「あり」なのではないかと感じる。

 あくまで「翻訳」しているのである、という理屈に立ち戻るなら、その翻訳に英単語が混ざっていて何が悪い、ということはできるわけだ。

 また、おがきちか『Landreaall』では主人公の名前そのものが「DX・ルッカフォート」で、アルファベットが入っている。

 これはもう、「そういう世界なのです」ということだと思う。

 ひょっとしたらこれも「翻訳」が入っていて、「ほんとうは」アルファベット以外の文字が使われているのかもしれないが、あえてそこまで深読みする必要はないだろう。

 アルファベットのある世界なのだとして受け入れてしまってかまわないのではないだろうか。

 最近の作品だとアニメ版の『無職転生』はわりあいにここら辺の世界設定にこだわっていて面白い。ネット小説のアニメ化として理想的な作品だと思う。

 もっとも、皆が皆、『無職転生』のようにしなければならないというものでもないだろう。

 この件について「ただひとつの正解」は存在しないし、そもそもファンタジー世界の設定について、SF的に詳細に詰めることが正しいわけでもない。

 『氷と炎の歌』のような「本格ファンタジー」が唯一のあるべき形でもない。

 いろいろなやり方があるわけであり、受け手はそれぞれの方法論の違いを楽しめばそれで良い。

 「たったひとつの正しいやりかた」があるのだから皆がそれに従うべきだ、という規範的な発想のほうが異常だ。

 創作は自由である。受け手もまたその自由さを味わう権利がある。

 「じゃがいも警察」にも「異世界文字警察」にも負けるな! 想像と創造の自由を追求せよ! わたしは、そう思う。

目次

【お願い】

 この記事をお読みいただきありがとうございます。

 少しでも面白かったと思われましたら、このエントリーをはてなブックマークに追加

をしていただければ幸いです。ひとりでも多くの方に読んでいただきたいと思っています。

 また、現在、記事を書くことができる媒体を求めています。

 この記事や他の記事を読んでわたしに何か書かせたいと思われた方はお仕事の依頼をお願いしますいまならまだ時間があるのでお引き受けできます。

 プロフィールに記載のメールアドレスか、または↑のお問い合わせフォーム、あるいはTwitterのダイレクトメッセージでご連絡ください。

 参考までに、晶文社さまのnoteに書かせていただいた記事は以下です。

 簡易なポートフォリオも作ってみました。こちらも参考になさっていただければ。

【電子書籍などの情報】

 この記事とはあまり関係がありませんが、いま、宮崎駿監督の新作映画について解説した記事をまとめた電子書籍が発売中です。Kindle Unlimitedだと無料で読めるのでもし良ければご一読いただければ。

 また、オタク文化の宗教性について考える『ヲタスピ(上)(下)』も発売しました。第一章部分はここで無料で読めますので、面白かったら買ってみてください。

 その他の電子書籍もKindle Unlimitedで無料で読めるのでもし良ければご一読いただければ。

 『「萌え」はほんとうに性差別なのか? アニメ/マンガ/ノベルのなかのセンス・オブ・ジェンダー』は一部フェミニストによる「萌え文化」批判に対抗し、それを擁護する可能性を模索した本。

 『Simple is the worst』はあまりにも単純すぎる言論が左右いずれからも飛び出す現状にうんざりしている人に贈る、複雑なものごとを現実的に捉えることのススメ。

 『小説家になろうの風景』はあなどられがちな超巨大サイト「小説家になろう」の「野蛮な」魅力に肉迫した内容。レビューの評価は高いです。

 Kindle Unlimitedに未加入の方は良ければ下のバナーからご加入ください。これだけではなく、わたしの電子書籍は「すべて」Kindle Unlimitedに加入すれば無料で読むことができます。初回は30日間無料です。

 ちなみに、Kindle Unlimitedに登録された本は「kindle unlimited検索」から検索することができます。めちゃくちゃ便利。

 

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

この記事に対するご意見、ご感想をシェアお願いします!
目次