こんなツイートがあって、
アニメ薬屋のひとりごと なんでこんな馬鹿な表現やったんだろう pic.twitter.com/h8VfY0Es7S
— ナトリ (@natori) 2023年10月25日
こういう言及がついて話題になっていた。
これね、物凄く難しい問題で、制作者も悩んだと思うの。だって中国語使うと舞台が中国確定になっちゃうでしょ?薬屋の舞台は中華風ファンタジーだから確定したら不味いんです。だからあえて日本語使ってるんですよ。 https://t.co/cuucLi4gWe
— 宮前葵 (@AOIKEN72) 2023年10月26日
該当作品はいまのところ未見だが、これはむずかしい問題である。
つまり、「異世界ではどのような文字を使い、言葉を喋っていることにすれば良いか」という話なのだろう。
「漢字を使うと中国になってしまう」とはいかにも誤解を生む理屈だが、「中華風異世界だから中国語を使わせるのが正解」とは必ずしもいえないということにはわたしも賛成する。
そもそも異世界の住人が日本語を話しているのがおかしいわけで、これは日本語ユーザーの視聴者向けに「翻訳」されていると考えるのが当然だろう。
となると、話し言葉は「翻訳」して表記していることに違和感を覚えない視聴者が、文字に対してだけは「翻訳」されて日本語表記になっていてはおかしい、と考えることはむしろ奇妙なことなのではないかという理屈も成り立ちそうだ。
つまり、話し言葉は「翻訳」されていて日本語になってはいるが、本来、異世界の言葉を喋っているはずだということなのに、文字は「翻訳」されていないとすると、ほんとうに漢字を使ってやり取りしていることになる。あくまで「中華風」の異世界であるに過ぎないのにそれはおかしいだろう、ということをいいたいのだと思う。
もちろん、「中華風」の異世界で漢字を使用しているからといって何もおかしくはないと考えることもできる。
そもそも「地球とまったく同じ見た目の人々が同じように暮らす異世界」という時点でご都合主義的なのだから、その先で整合性に拘ってもしかたないというのは、ひとつの良識だろう。
つまりは、異世界の独自性にどこまで拘泥するか、するべきなのかということなのであって、一概に日本語で書くのは愚かで、漢字で書くのは正しいということにはならないのである。
当然、逆もまた無条件には成立しない。「異世界」という存在そのものが架空であるわけで、そこでどこまでリアリティを追求するべきなのかということはひとつの解を見いだしようがないものだろう。
重要なのは、むしろ「雰囲気」とか「作中での整合性」でしかないのではないか。
一定のリアリティの追及を当然とする姿勢が行きすぎるといわゆる「じゃがいも警察」のような不毛さがただよう。
そして、また、ここら辺のことについてはおそらく先人たちも迷ってきたのではないか。
たとえば、『グイン・サーガ』の世界には「パピルス」や「羊皮紙」があるようである。また、しばしば魔法の文字として「ルーン文字」が登場する。
純粋にリアリティを考えればおかしいといえばおかしい。
また、『十二国記』の世界では、どうも漢字を使っているらしい描写がある。これもおかしいといえばおかしいのだが、この場合は『十二国記』世界の誕生の秘密そのものが関わっているようでもあって、何ともいえないところだ。
面白いのがアニメ版の『精霊の守り人』である。
この作品では、東洋風の世界であるにもかかわらず、あえて第一話から「メンテナンス」とか「フォーメーション」という横文字を入れてきている。
挑戦的でかつ挑発的、大胆な表現だ。
おそらくその当時も賛否はあっただろうが、個人的には「あり」なのではないかと感じる。
あくまで「翻訳」しているのである、という理屈に立ち戻るなら、その翻訳に英単語が混ざっていて何が悪い、ということはできるわけだ。
また、おがきちか『Landreaall』では主人公の名前そのものが「DX・ルッカフォート」で、アルファベットが入っている。
これはもう、「そういう世界なのです」ということだと思う。
ひょっとしたらこれも「翻訳」が入っていて、「ほんとうは」アルファベット以外の文字が使われているのかもしれないが、あえてそこまで深読みする必要はないだろう。
アルファベットのある世界なのだとして受け入れてしまってかまわないのではないだろうか。
最近の作品だとアニメ版の『無職転生』はわりあいにここら辺の世界設定にこだわっていて面白い。ネット小説のアニメ化として理想的な作品だと思う。
もっとも、皆が皆、『無職転生』のようにしなければならないというものでもないだろう。
この件について「ただひとつの正解」は存在しないし、そもそもファンタジー世界の設定について、SF的に詳細に詰めることが正しいわけでもない。
『氷と炎の歌』のような「本格ファンタジー」が唯一のあるべき形でもない。
いろいろなやり方があるわけであり、受け手はそれぞれの方法論の違いを楽しめばそれで良い。
「たったひとつの正しいやりかた」があるのだから皆がそれに従うべきだ、という規範的な発想のほうが異常だ。
創作は自由である。受け手もまたその自由さを味わう権利がある。
「じゃがいも警察」にも「異世界文字警察」にも負けるな! 想像と創造の自由を追求せよ! わたしは、そう思う。
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