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「怪獣」とは何か?

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【ゴジラとコングと】

 映画『ゴジラ×コング 新たなる帝国』を観て来ました。

 まあ、いってしまえば、見る者の心をえぐるど傑作!……というわけではまったくなく愉快なお祭り怪獣映画に過ぎないので、とくにオススメするわけではありませんが、事前に予想していた以上に面白かったです。

 1000円お高い4DXで見たので、座席が揺れるわ水が噴き出すわ、アトラクションとしてひたすら楽しかった。過去に体験した4DX映画のなかでいちばん揺れたかも。

 そういう意味では非常に4DXと相性が良い作品であるとは感じましたね。

 ちなみにこの作品、ワーナーブラザーズとレジェンダリーピクチャーズが展開する〈モンスターバース〉と呼ばれる作品群の一環で、シリーズ第五作にあたるようです。

GODZILLA ゴジラ(吹替版)

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ゴジラvsコング(吹替版)

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 ぼくは過去作は『キング・オブ・モンスターズ』くらいしか観ていないので一部、展開が良くわからないところがあったのだけれど、メインはあくまで怪獣たちの大乱闘なのであまり関係がありません。

 「ああ、前作でメカゴジラが出てきたのね」くらいに受け止めておきました。それで十分でしょう。

 いまどき地球空洞説が採用されていたりするあたり、もうリアリティがどうこう、SF考証がどうこうというような映画ではないことは自明で、そのうち宇宙人も出て来るかもしれません。そういうものとして楽しむ限り、無類の面白さだといって良いでしょう。素晴らしい。

 そもそも怪獣映画にあまり興味がないぼくですら楽しめたくらいだから、この手の映画が好きな人はわくわくが止まらないのでは。

 全編、ある種チープにも見える昭和の特撮映画が現代ハリウッドの撮影技術で復活した感じで、『シン・ゴジラ』や『ゴジラ-1.0』のような重厚さはまったくありません。

シン・ゴジラ

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ゴジラ-1.0

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 これがマーベルのヒーロー映画だと安全保障だの人種差別だのといったシリアスなテーマが裏に隠されていることもあるのですが、こちらは特別そういうこともなく、ほんとうにただただ怪獣たちがプロレスをしているだけ。

 コングがゴジラにバックドロップをしかけるのは笑った。

 『オッペンハイマー』みたいな複雑巧緻な映画も良いけれど、この手の知能指数低めの作品も悪くないものですね。うん、良いと思うよ!

【怪獣とは「感情移入可能な脅威」】

 そういうわけで意外になかなか楽しめたのですが、友人のLDさんによるとこのシリーズは海外では初代『キングコング』以来、なかなか出て来なかったしんじつ「怪獣」を描いた作品なのだそうです。

 LDさんがいうには「怪獣」と「モンスター」は別ものなのであって、いままでのハリウッド映画では「モンスター」こそたくさん描かれても、日本的な意味での「怪獣」はなかなか出て来なかったと。

 それがここに来て、『パシフィック・リム』なども含め、純正の「海獣映画」が出て来ていて、しかも世界的に大ヒットしていることが興味深いという話でした。

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 それでは「怪獣」と「モンスター」の何が異なっているかといえば、「モンスター」が単なる怖ろしい怪物であるのに対し、「怪獣」は大いなる自然への畏怖が仮託された神のような象徴的存在であるということになるでしょう。

 そしてまた、「怪獣」は一面で一切の人間的事情を無視する凄絶な脅威であるにもかかわらず、どこかで感情移入が可能となる。そこが、たとえば「エイリアン」などとは違う「怪獣」の魅力なのだと思います。

 じっさい、今回の映画ではゴジラもコングもかなり人間的に描き込まれており、ほとんど「ヒーロー」に近い一面も見せているように思います。とはいえ、「怪獣」はあくまで「怪獣」、いちいち個々の人命に忖度したりはしないのですが。

 面白いのが、LDさんの語ることには、ハリウッド映画でもドラキュラや狼男、フランケンシュタインといった「人型モンスター」は初期から感情移入の対象として(つまり「ヒーロー」的な存在として)描かれてきているということです。

 じっさい、吸血鬼あたりに至ると、キングの『呪われた町』のような作例はあるとはいえ、現代では「モンスター」よりずっと「ヒーロー」に近い存在だといえそうですよね。

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 「怪獣」の面白さは、そのように人のかたちをしているわけではなく、また、人間に惨禍をもたらしすらするにもかかわらず、どこかで感情移入できるというか、人間の側の思い入れを投影できるところにあるのでしょう。

 ほんとうにゴジラやモスラの側が人間的な情緒を受け入れているのかどうかはまったくわからないのだけれど、人間の側ではその時々でゴジラを怖れたり、うやまったりする。まさにその一点こそが「モンスター」ならぬ「怪獣」の尽きせぬ魅力なのです。

 ここで思い出すのがSF小説で連綿と描かれてきた宇宙の知性のことで、それらは「いかに人間の理解からかけ離れた存在であるか?」が重視されてきました。

 その極北はレムの『ソラリス』に登場する「惑星ソラリスの海」だと思われます。

 何しろ、「知性を持った(持っているらしいと想像される)海」という、わけがわからない存在なので、まったく感情移入のしようがない。いい換えるならキャラクター化できない。

 そういう意味では、「怪獣」よりももっと「遠い」存在であるといえるわけです。こういうものがSFにおいては面白いとみなされるわけですね。

 ある意味では、「怪獣」とは「共感可能な人型モンスター」とこういった「共感不可能な非キャラクター的知性」の間にあるものなのだといって良いかもしれません。

 並べると、「友好的な人間」>「怪物的な人間(レクター博士など)」>「人型モンスター(吸血鬼、狼男など)」>「怪獣(ゴジラ、コングなど)」>「非人型モンスター(エイリアンなど)」>「ソラリスの海」の順番で感情移入がしづらい、共感可能なキャラクターでないといえそう。

 それではウルトラマンなどはどこにあたるのか、ガンダムやエヴァンゲリオンあたりはどうなのかなどと考えていくと色々見えてくるものがあるように思えます。面白いですね。

 だからどうなんだという人もいることと思いますが、そういう人はぼくのブログなんて読まないことでしょう。好奇心は人生のいしづえ。これからも、他愛ないことに積極的に興味を抱く生き方をしたいと思います。

【さいごに】

 最後までお読みいただきありがとうございます。

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