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華麗なる悪党たち。スコットランド・ヤード誕生前夜の英国で活躍した犯罪者について語ろう。

 偉大なる大英帝国の首都、霧のロンドン。しかし、世界中の富が集まる大都会は、数々の悪党が跳梁する悪の都でもあった。本書はそんな魅力的な悪党たちの虚実を綴っている。

 以下、面白いエピソードを二つ並べておく。

 十七世紀半ば、フランスに生まれ、イギリスにわたったドゥバルという名の盗賊があった。

 ピストルと短剣を手に貴族の馬車を狙う身の上ではあったが、ダンディな上に女性には決して危害を加えないことから、貴婦人たちのあいだでは人気が高かった。

 あるとき、ドゥバルが馬車を襲うと、そこに乗っていた貴婦人は、かれに会えたことを喜んで楽器を奏でた。思わず「仕事」を忘れて聴き惚れたドゥバルは、彼女のまえにひざまずいて一礼し、申し出た。

「奥様、お願いです。いまの曲でこの私と一曲ダンスをお付き合い願えませんでしょうか」

 踊り終わるとドゥバルは馬車のなかのナイトに近づき、うやうやしく云った。

「さて、殿下、私の舞踏をご覧くださり誠に光栄に存じます。つきましてはご観覧料を頂戴に参りました」

 この美貌の悪党が捕まったとき、特権階級のレディたちはこぞってかれの無罪釈放を求めた。その声は国王を動かし、かれは時の裁判長にドゥバルの釈放を命じた。しかし、この人物は辞職を賭けて王の言葉を拒みぬいた。

 かくして1670年1月21日、ドゥバルは淑女たちの涙のなか処刑台に消えた。その墓碑銘にはこう記されている。

 ここにドゥバルは眠る。この碑銘を読む方々、あなたが男なら懐中物に、女ならハートを盗まれないようにご注意あれ。

 

 

 それから100年ほどあとに、ジョナサン・ワイルドという名の大悪党が「活躍」した。

 当初、ワイルドは、子分たちが盗んできた品物を安く買い上げ、盗まれた金持ちに高く売りつけては利ざやを稼いでいた。しかし、このやり口が子分たちの妬みを買うことを悟ると、新たな手法を発明した。

 盗品を金持ちに売りつけるのではなく、金持ちから盗まれた品を発見してやるための手数料を取り、量で稼ぐのである。子分から得た利益は平等に分配し、ワイルドはロンドン最大の悪党へのし上がって行った。

 彼は「大英手国およびアイルランドにおける泥棒逮捕者総統」を名乗り、記者会見を行った。ロンドンの金持ちのなかにはそれを間に受けてワイルドを慈善家と思いこむ者すらあらわれた。

 ワイルドは「偉大なる悪行」の心構えとして、以下の七つの金言を座右の銘とした。

一、人には公平に処すべし。ただしその公平とは、己に利益をもたらすために犠牲となる機会を与えてやる場合に限ってのことだ。

>二、人を信じない。敵を断固許さない。復讐は手間ひまかけて根こそぎ行う。

三、人には尊厳をもって対処し、顔は友愛の微笑を絶やさず、心は憎悪で固め牙を研ぐ。

四、人間の本性は欲望の底なし沼の如し。この沼にひきずり込めば勝つ。

五、すべての美徳は宝石と同じく贋造は易い。だが本物同様に身に纏うのがコツ。真贋を見分ける者はロンドン中に一人か二人いればよいくらい希だから。

六、無頼の道は極めてこそ意義深い。中途半端では後世に名が残らないばかりか、物笑いの種になるだけ。極道の意義付けくらい容易なことはないのだから。つまり社会善、困った人を助けることこそ、この道の奥義だ。ただしそれは表向きの理屈である。

七、真に求めるものは富と権勢だけである。

 ワイルドは一度ならず結婚していたため、かれの没後、6人の女性が未亡人となった。

 こういった悪党どもを逮捕するため、長い時間をかけ生み出されたのが、あの世界一有名な警察組織〈スコットランド・ヤード〉である。

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