「同人AV」と「小説家になろう」で考える「アマチュアクリエイターの時代の成功法則」とはなにか。

【本文】

 えむゆみカップルの著書『エロ2.0 「月収4000万円」Pornhuberが実践した「欲望を共有する」最速ファンマーケティング』を読み上げた。めちゃくちゃ面白かった。

 アクセス数世界10位という超巨大ポルノサイトPornhubで「月収4000万円」という巨額の収入を稼ぎ出した「えむゆみカップル」のふたりが、どのようにしてその快挙を成し遂げたか記された一冊。

 さまざまな理由でセックスの価値が「デフレ化」するいまの時代、AV女優やソープ嬢になってもたいした額は稼げないといわれる。

 それなのに、この「カップル」はわずかな期間でじつに数億円の利益をあげたという。いったいその秘密はどこにあるのか、興味津々に読みふけりましたよ。

 結論から書いてしまうと、非常に勉強になる本だった。ひとつアダルトビデオ配信に留まらず、ファンビジネスを行うに際しては参考になる点が多々ある。

 まだ日本人がだれもPornhubに参入していなかった頃にそこへ打って出たブルーオーシャン戦略が功を奏したことはたしかだろうが、あきらかにそれだけではない。

 「エロだからこそ人間性が大事」といい切るふたりには確固たるビジネスの理念がある。ある意味、そこらへんのプロよりよほど徹底したプロ意識を持っているのではないだろうか。

 何より驚かされるのは、その意識の健康さだ。この本を読んでいても、従来のセックスビジネスにしばしば見られる後ろ暗さのようなものがまったく感じられない。

 いってしまえばふたりともごくふつうの若者なのであり、たまたま自分たちのセックスを配信しているだけのことで、どこにも特別なところはないように見える。

 そこはまさに「同人AV」ならではという印象だ。

 おそらくご存知ない方のほうが多いだろうが、現在のアダルトビデオは大別して適正AV(商業AV)と同人AVに分かれる。

 適正AVはそのすべてが業界倫理団体の審査を通っているのに対し、同人AVはそうではないという違いがある。そうかといって同人AVが違法かというとそうではなく、単に団体を通していないだけに過ぎない。

 ここらへんのことは『同人AV女優』という本にくわしい。

 アダルトビデオを強烈に規制するいわゆる「AV新法」の発布によっていま、AV業界は窮地に追い込まれている。

 この「AV新法」の成立にあたっては多分にイデオロギー重視なフェミニスト団体などが動いており、ネットでは「表現の自由」のテーマとして話題になることが多いだろう。

 しかし、その一方で過去に出演強要などの事件があったことは事実であり、AV業界の自業自得という側面も大きいらしい。

 関係者の仕事がなくなってしまうことは問題だが、AVを作る側に問題がなかったわけではないのだ。

 そしていま、そういった暗い「しがらみ」とは無縁の同人AVが活況を呈している。

 AV業界はアマチュアも気軽に参入できる「個人の時代」を迎えているわけだ。いまとなっては、AVはシロウトでも簡単に作れるのである。

 現在、PornhubやFC2などで活動する同人AVサークルはその数、数千に達するという。

 しかし、もちろん、シロウトがこの世界に参入したからといって、簡単に成功するとは限らない。じっさいには、無数の失敗例が存在しているはずだ。

 「えむゆみカップル」はその成功例にあたるわけだが、失敗している人のほうが多いかもしれない。

 とはいえ、平均的に見れば同人AVは経済的な意味でも活況を呈していることもたしからしい。何といっても、自由な発想で好きなものを撮れるところに価値がある。

 プロの製作スタッフたちが作る適正AVが「AV新法」によって雁字搦めになっている状況があるのに対し、同人AVはニッチだったりマニアックだったりするポイントをアマチュアならではなの視点で切り拓いている印象だ。

 もちろん、適正AVを制作していたプロのスタッフも同人AVを作ることはできる。だが、現実には適正AVのクリエイターが同人AVの業界に参入しても、ほとんどの場合、うまくいかないという。

 シロウトよりよほど技術はあるはずなのに、不思議なことにも思える。

 しかし、これは逆に考えるべきで、べつだん、同人AVに一定以上のクオリティは必要とされていないというのだ。

 その点で、どうしてもクオリティにこだわってしまうプロは成功から遠ざかる。『同人AV女優』にはそのような実態が赤裸々に書かれている。

 それにしても、クオリティにこだわるプロの作品を押しのけて、自由な発想のアマチュア作品が市場を支配する。どこかで聞いたような話だと思われないだろうか。

 そう、ぼくはここで「小説家になろう」のシロウト作品がプロフェッショナルなライトノベルを圧倒していった流れを思い出さずにはいられなかった。

 べつに直接的な関係はないはずだが、どこの業界でも同じことが起きているものだなと感心してしまう。

 必要なものは文章や映像のクオリティではないのだ。

 もちろん、そこが優れていたからといって悪いことはないはずだが、「アマチュアクリエイターの時代」においては重要なポイントがそこにないことを受け入れなければならない。

 シロウト作家が書くなろう小説の「クオリティの低さ」についてはつねに批判意見が存在した。「なろう小説」は買われても読まれていないなどということもまとしやかに語られた。

 商業化した小説も、無料で読めるなろう連載版も同じ文字ですから、なろう掲載時に応援していた読者が商業化した小説を買い求めるのはご祝儀的な意味がけっこうデカいことは想像がつきます。あとはヒロインがどんな姿格好でイラストになっているか、とか。わりと買っても読まないよね、出版されたなろう系小説。スマホでダラダラ流し読みできるから商業化してクオリティが一定担保されている小説よりなろう系を選んできたわけだから。フォーマットが不便になってさらに有料になったともとれるわけです。

 しかし、現実になろう小説は「既存のライトノベル」以上に売れているわけで、まちがいなく読まれているのである。

 ここにあるものは「クオリティ」を基準に小説を語る視点であるわけだが、純粋にクオリティだけを重視するなら主流文学か時代小説でも読むことだろう。

 現代において消費者が求めているものは必ずしも批評的な意味での「クオリティ」ではない。そのリアルと誠実に向き合っていくことが「アマチュアクリエイターの時代」の生存法則であるのだろう。

 ところで、ここから先は余談になるのだが、個人が自分のセックスをマネタイズするに際して、最も大切なものはなんだろうか。

 思うに、それは美貌でも巨乳でもない。計画であり、戦略であり、つまり「長期的展望」なのである。

 「えむゆみカップル」にはあきらかにその「展望」がある。それに対して、『同人AV女優』で取材を受けている女優たちの多くは逐次的に作品に出演しているだけで、しかもその作品の内容にもまるで興味を持っていない。その態度はほとんど自暴自棄な印象すら受ける。

 「だからダメなのだ」といってしまえばそれまでだが、ここにはある種の精神的な貧困と荒廃の問題がある。

 それは『実存的貧困とはなにか』という本のなかで「実存的貧困」という言葉で表された精神状態であると思われる。

 これではセックスのマネタイズは一過性で終わり、自分の価値を多額の金銭に換えることはできない。また、仮に金銭を稼げたところで、そのすべてを「ホスト狂い」で捨ててしまってはなんにもならないだろう。

 どの業界でも、「成功しつづける」ために必要なものは、何より「心の安定」なのだということ。そのことを思い知らされるような二冊の本だった。

 その「健康な精神状態」があるかどうかで、同じことを試しても天地の差が出るのである。

 病んだ人間、壊れた人間はどうしてもどこかで破綻する。それに対して、健康な人物は目先のことに一喜一憂することなく「成功を積み上げる」ことができる。

 ある種、実も蓋もない話だが、それが、同人AVからわたしたちが学ぶことができる真実であるように思われる。

 まずは、心の健康なのだ。

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