先日、『ベルセルク』最新巻となる第42巻が発売された。いうまでもなく、作者である三浦健太郎死後の最初の『ベルセルク』だ。
三浦の死後も有志のスタッフによって連載は継続され、新刊が刊行されることとなったのである。
制作には三浦の親友であり『ベルセルク』の構想を最後まで知っていたただひとりの人物である『ホーリーランド』、『自殺島』の森浩二がかかわっているという。
それでは、三浦亡きあとの『ベルセルク』はどうなっているのか?
ガッツたちを追うなぞの子供の正体がグリフィスであると判明したその後の展開は?
そして、三浦を失くしたあと、遺されたスタッフはあの『ベルセルク』をどの程度再現できているのか?
いろいろな意味でこの巻は注目の的だった。
じっさい読んでみると、正直、「意外に悪くない」という印象である。
たしかに、失われたものはあまりにも大きい。すでに三浦がこの世にいない以上、完全な『ベルセルク』の再現などだれにもできるはずはない。
とはいえ、それはそれとして、『ベルセルク』という物語を最後まで読める(かもしれない)ことはやはり嬉しい。
そして、紡がれる物語は紛れもなく『ベルセルク』のあの昏い雰囲気を漂わせている。
いまではフロムソフトウェアの『ダークソウル』や『エルデンリング』などによってダークファンタジーという言葉もジャンルも一般的になったが、このジャンルを最前線で切り拓いて来たのはまちがいなく『ベルセルク』である。
そして、この第42巻でも、『ベルセルク』は「『ベルセルク』らしさ」とでもいうべきものを残している。
作画には微妙な違和を感じないこともないが、それにしても、良くぞここまでと思うほど再現しているほうだろう。評判が悪くないことも良くわかる。
本来であれば作者死後の物語はどれほど中途半端であってもそこで終わることが筋だろう。まして『ベルセルク』のような天才的な作品であればなおさらだ。
その世界を再現できる者がいない以上、物語を続けることはそれまでの展開に泥を塗ることにもなりかねない。
だが、そのようなあたりまえの理屈はだれよりも作品を描いているスタッフこそがわかっているはずだ。
わかった上で、それでもなお『ベルセルク』を続けることを選んだかれらの責任感は賞賛されて良い。
このまま行くとあとどれくらいで物語が終わるかはわからないが、どうやら展開は終盤に差し掛かっているようにも見える。
こうなったら最後までつきあうしかない。ぼくも突然死しないよう健康に気をつけて次巻を待つこととしたい。
物語的には、突然、ガッツたちの面前に表れたグリフィスは、いったい何の目的があってのことか、かつて、「触」のただなかで凌辱したキャスカをさらっていく。
キャスカは「塔の上の姫君」よろしく幽閉され、グリフィスはさらなる野望を叶えようとしているかに見える。
さて、この展開はどこに落着するのだろう? ガッツは「ゴッド・ハンド」と化したグリフィスの圧倒的な力をまえに絶望するのだが、果たしてかれに活路はあるのだろうか。
いままでも何度となく壮絶な絶望をくぐり抜けてきたガッツではある。
しかし、「神の手」と化したいまのグリフィスに対し、ひとりの剣士であるに過ぎないガッツに何ができるだろう?
物語は超常の次元で推移し、そこに生身の人間が関わるすべはないようにも見える。次巻以降のガッツの復活を期待したい。
一方、グリフィスは何を考えているのか? 現世に降臨した「ゴッド・ハンド」であるかれの力をもってすれば、かつての夢であった王位に就くことはおろか、世界征服すらも容易であるはずだ。
だが、神の力を得たいま、〈闇の翼〉フェムトでもあるグリフィスが望むことは何なのか、必ずしも瞭然としてはいない。
「東へ」。その言葉が意味するものは新たな殺戮と征服なのか、それとも他に何か意味があるのか。ストーリーは新たな局面に入ったようにも思える。
いずれにせよ、つづく第43巻、そして第44巻とそれ以降が気になってしかたない出来だ。
作者の信じがたい急逝によって、『ベルセルク』というこの、壮大な暗黒のサーガはいったん中座したかに見えた。
しかし、それは有志によっていま、どうにかよみがえった。
とはいえ、この先もこのクオリティで最後まで物語が続いていくという保証は何もない。
あるいはどこかでまた道は閉ざされるかもしれない。その可能性は常にある。
それでも、なお、ぼくはこの新しい『ベルセルク』に期待したい。
巻末で森浩二は「不完全なものになる」ことを宣言しているが、じっさいそれはそうだろう。
それでもかまわない。地上に類例のないこの暗黒神話の顛末を見せてほしい。
ガッツは、グリフィスは、キャスカは、最後にどうなるのか?
あと何年、何十年かかっても良い。最終巻まで『ベルセルク』を追いかけたい! いま、望むのはそれだけである。
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