このようなツイートを読みました。
「異世界転生は必要か?」に対して
・現実の知識を持ち込みやすい
・でも空想の世界なのでリアリティ警察に突っ込まれにくい
・つまり書き手が書きやすいっていうのはわかったんだけど、逆に読む側の心理がよくわからない。
異世界転生モノが好きです!ってどういう理由なんやろ。
「異世界転生」はいうまでもなく創作投稿サイト「小説家になろう」で人気を席巻した一大ジャンルです。
その特徴は、ゲーム的な「異世界」に生まれ変わってさまざまな冒険を繰りひろげること。
このジャンルがはやった理由は上記で指摘されていることのほかにも色々あると思いますが、ようはわりあい若い層の書き手が小説を執筆しようとしたとき、参考になるものがゲームしかなかったということなのでしょう。
歴史小説やSFを書くためにはそれなりの専門知識が必要だし、重厚で独創的なファンタジーを書くのも並大抵ではない力量がいる。
それに比べれば、「異世界転生」という名のゲーム小説は遥かに「お手軽」だった、ということなのだと思います。
あまり言葉のひびきは良くないかもしれませんが、ぼくは「お手軽」ということをそれほどネガティヴには捉えていません。
「お手軽」だからこそ参入障壁が下がり、多くの人が参戦して来て、結果として豊かな土壌ができあがったとするなら、その「お手軽さ」はポジティヴに受け入れるべきではないでしょうか。
もちろん、その結果として膨大な「書きはしたものの、だれにも読まれない作品」が誕生してしまったことはたしかですが、それはしかたないですよね。
「異世界転生もの」がなかったならそのような小説はそもそも書かれもしなかったことでしょうから……。
それでは、「異世界転生もの」が書かれる理由はともかく、読まれる理由はどうなのか?
いま、「なろう」では恋愛ものが主流になりつつあるようで、かならずしも「異世界転生」は流行の最先端とはいえないかもしれません。
とはいえ、いまだ人気ジャンルのひとつであることは間違いなく、そこに大きな「需要」があることがわかります。
その「需要」とは?
ぼくはこれも「お手軽さ」に理由があると思います。
「なろう」の「異世界もの」は基本的にどれも同じような世界を舞台にしています。
それこそ『ドラクエ』とか『ファイナルファンタジー』といったテレビゲームをテキトーに模倣した「異世界」ですね。
そこには、『グイン・サーガ』や『十二国記』のような、オリジナルな世界ひとつを丸ごと生み出そうという姿勢はあまり強くありません。
いってしまえば、世界は汎用品でかまわないのです。その世界でどういう物語が繰りひろげられるか、それが本質なのですね。
小説を読む際、読者がいちばん「抵抗」を感じるのは冒頭、つまり「その世界に入るとき」です。
プロフェッショナルな作家はさまざまな手くだを講じてこの「抵抗」を減らそうとするのですが、ほとんどのシロウト作家はそこまでのスキルを持っていません。
そこで、「おなじみのゲームの世界ですよ」と「抵抗」を減らしてみせたのだと考えます。
そして、何といってもそういうゲーム的なストーリーには「需要」があるのですね。現代ならではのことでしょう。
上記のツイートはこのように続きます。
自分が思うに、異世界転生が好きって言っている読者って、ストーリーとかどうでも良くてキャラの掛け合いとか戦いを見ていられればそれで良いのでは?
魔王を倒しに行こうが行くまいがどっちでも良く、魔法や特殊能力が使える世界できゃっきゃしているのを眺められればそれで満足度、みたいな。
山なしオチなし意味なしでも気にならず、誰が一番強いとかをやっていれば良いんじゃないか?
徐々に面白さが盛り上がるような感じよりも、出オチ的に出てきた設定やインパクトの響きこそが重要なのでは。
へー、今度はこのシチュエーションなのね。みたいな。https://twitter.com/ukitaryu/status/1446366227660619778?ref_src=twsrc%5Etfw
これらの意見には、ぼくは異論があります。
「魔法や特殊能力が使える世界できゃっきゃしているのを眺められればそれで満足度」というのは、むしろ従来のライトノベルのほうにこそあてはまるのではないでしょうか。
「キャラクターの魅力で引っぱる」とはよくいわれることですが、じっさい、それはいうほど容易なことではない。
さらに「なろう小説」ではライトノベルと違って、基本的にイラストの助けがないなかで展開しなければならない。
だから、「なろう小説」、そのなかでも特に「異世界転生もの」では、キャラクターというよりシチュエーションがモノをいいます。
とはいえ、「出オチ的に出てきた設定やインパクトの響き」だけではほかの作品と差別化しきれません。
もちろん、そういった「響き」が大切なのはいうまでもないものの、さすがにそれだけで人気を持続させられるほど甘くもないのです。
それでは、いったいそのどこに魅力があるのか?
ぼくは、結局は「物語」の、展開の面白さしだいだと思う。すくなくとも「なろう小説」のなかで爆発的人気が出たものは、意外にも「物語」の面白さで読ませている印象がつよいように思えます。
もちろん、それは一般的なリアリティから大きく外れた、「ゲーム的なリアリティ」の物語ではあるのですが、それにしても「物語」には違いない。
と言うか極端な話「流行に沿った展開で主人公が最強してれば満足」な気もするんですよねぇ
ストーリーはおろか キャラすらちゃんと見られてるのかどうか・・・https://twitter.com/aaabaaab222/status/1446429170972561412?ref_src=twsrc%5Etfw
こういう意見もありますが、そういった「テンプレ」は簡単にコピーできて爆発的に増殖するので、そこで差別化して目立つためにはどうしても何らかの「プラスアルファ」が必要となります。
このプラスアルファのアイディアなりシチュエーションをどう転がすか、そもそも転がすことができるかどうか、それがつまりは「なろう」で人気を得ることができるかのカギだと感じます。
まあ、たしかに、まったく話が転がらないままキャラクターなりアイディアの印象で人気を得ている作品もあることはある。
ただ、そういった作品はそれはそれで「鬼子」的であって、マジョリティとはいいがたいのではないでしょうか。
そうだとするなら、「異世界転生もの」ならではの「物語」の面白さとはどのようなものなのか?
男性向けと女性向けといった違いもあるし、いわゆる「俺TUEEEもの」と「悪役令嬢もの」をいっしょにするわけにもいかないのでひと口には語れないのですが、あえていうなら、それは「ネガティヴな状況がポジティヴに変わっていくカタルシス」だと思います。
「異世界転生もの」を含む「なろう小説」は、極端にネガティヴなマイナス的状況からスタートすることが少なくありません。
しかし、それはかならず即座にポジティヴなプラス的状況へと転化する。
というか、この「マイナスからプラスへの変化」を描くために初期状況をマイナスに設定するのですね。
マイナスが大きければ大きいほど、そこからプラスへ変わるカタルシスも大きいことになります。
一般的な作劇論だと、物語はアップダウンをくり返しながら進んでいくものなのですが、「なろう小説」ではいったんプラスに向かい始めたら、延々とさらなるプラスへ「上昇」していくことがふつうです。
わかりやすいのが「なろう」のランキングで累計首位を記録しつづけている『転スラ』でしょう。
この作品の主人公は初めは一匹のありふれたスライムに過ぎなかったのに、物語が進むにつれ、どんどん最強へ向け成長していく。
その結果として、かれの視野は広がり、物語のジャンルすら変わっていく。これは「上昇」と「拡大」によってカタルシスをもたらしている典型的な例だと思います。
その意味で、「なろう小説」はたしかに「少年マンガ」に近いところがある。
ただ、現実逃避だといえばそうだし、願望充足といおうと思えばいえるのだけれど、読者のだれもが主人公に自己を投影して読んでいるかといえば、そうでもない気がします。
やっぱり「なろう小説」は「物語」なんですよ。ただ、あたりまえの物語と比べて、「上昇と拡大のカタルシス」に特化している。
いったんマイナスからプラスへ上昇すると、プラスからマイナスへ落ちることが、ないわけではないにしてもきわめて少ないのですね。それも今後は変わっていくかもしれませんが。
ただ、「なろうの外」で高く評価されて人気が出ている作品は、『無職転生』にしても『Re:ゼロから始める異世界生活』にしても、『本好きの下剋上』にしても、わりあい「アップダウンをくり返すふつうのドラマツルギー」を用いているように思います。
特に、いくつかの「ターニングポイント」ごとに大きくネガティヴな展開が待っている『無職転生』は、一見するとスタンダードな「なろう小説」でありながらクラシックなほどに端正な物語構造です。
また、『Re:ゼロ』の過剰なほど過酷なストーリーは「なろう」の常識を大きく逸脱しているように思います。
とはいえ、「なろう」において大切なのは「どのようにしてカタルシスを演出するか」、この一点であることはたしかでしょう。
「なろう」はすべての評価がポイントによってクリアーに示されてしまうあまりにもわかりやすい「戦場」です。
ここでは、とにかく「面白い」ものだけが生き残る。長大なタイトルも、俺TUEEEやハーレムのようなわかりやすい読ませどころも、そのために洗練された方法論であるに過ぎません。
「なろう小説」をバカにすることは簡単ですが、じっさいに「なろう」で長く人気を維持しようとするとじつは容易なことではない。
そして、先に述べたように、その方法論も、いままた変わろうとしているようです。
いったいこの先、「なろう」がどのような姿になっていくのか。だれにも予測はできないでしょう。ぼくもまた、ただ楽しみに待つばかりです。
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