その執着はほんとうに愛ですか? なぜ女性向けポルノは「被虐」や「執着」にこだわるのか。

 めちゃコミックで一気読みした『男友達が激甘カレシになりました』を読み返しています。ぼく、このマンガ、めっちゃ好きなんですよねー。

 いわゆる「ティーンズラブ」で、性描写が入っている作品なので苦手だと思う方も多いでしょうが、少女漫画が好きなら男性であれ女性であれぜひ読んでみていただきたい。そんな人がこのブログを読んでいるかはわかりませんが……。

 以前つきあっていた男のせいで恋愛にトラウマを抱え、自分を大切にすることができなくなったひとりの女の子が、あらたにつきあうことになった男によってその傷を癒やしていくというストーリーなのですが、あ、甘い。甘いよ! こういうの好きさ。

 主人公が(とくべつ美形でも天才でも富豪でもないものの)非常にいい男で、男性の目から見てもこういう男は良いよなと思わせられます。

 まあ、なかなか現実にはこんなふうにスパダリ属性を発揮できないでしょうが、ひとつの理想の形として覚えておきたいところですね。

 いや、ぼくはただのアラフォー(もうそろそろアラフィフ)非モテおじさんに過ぎないので、べつに覚えたところでどうなるものでもないのだけれど、やっぱり男は目の前にいる妻や恋人を大切にしないとダメだと思うんだよな。

 というか、自分がつきあっている女性をだいじにしない男なんて理解できません。

 『あなたがしてくれなくても』のダンナとか最低ですよ。花は水をあげつづけないと枯れちゃうんですよ。

 あれは本質的にセックスレスの話じゃないんじゃないんじゃないかな。むしろ「孤独」の話で、ふたりでいるときにひとりなのはひとりでいるときひとりであることの何倍も辛いというそういう物語なのだと思う。

 好きで結婚した奥さんをひとりぼっちにさせちゃダメでしょ。

 そりゃまあ、そうそうマンガみたいにはいかないでしょうよ。でも、すこしでも愛情があるなら自分にとっての女性とはちゃんと向き合うべき。

 というか、愛とはその人に正面から向き合うということだよ。

 そういえば、虚淵玄シナリオの『Phantom』に、主人公ツヴァイがそれまでさまざまな罪を重ねてきた恋人クロウディアに対し「あんたはこの世で最も尊い女だ」みたいなことをいうシーンがあって、それも好きでした。

 いったい、自分の恋人や伴侶をだれよりも尊い、素晴らしい存在だといい切れない男にどのような価値があるでしょうか?

 たとえ、他人にとってどう見えていようと、自分自身にとってのたったひとりの女性に対しては真摯で誠実であるべきだし、それができないのなら別れたら良いと思うんだよなあ。

 まあ、じっさいには人間、そんなにきれいに割り切れるものでもないんだろうけれど。 

 で、この作品のばあい、主人公のちえちゃんは元男友達のカレシに愛されてしあわせになるわけですが、まあ、現実には自己肯定感の低い女の子はろくでもない男につかまってひどい目に遭ったりしがちですよね。

 特に毒親育ちとかいじめられ経験ありとかで実存がぶっ壊れている女性は(男性もそうだけれど)、「自分自身を大切にする」というあたりまえの回路が作動しないところがある。

 「愛着障害」とか「実存的貧困」の状態です。

 もちろんフィクションでも「自分を大切にしてくれない男性」に惹かれる女ごころはよく見かけます。

 最近は少なくなったかもしれないけれど、一時期の少女漫画では「ドS男子」が花ざかりでした。いまは「執着男子」がはやっている感じですかね。

 でも、ドSもストーカーも恋愛相手として問題があることはいうまでもありません。

 これも当然のことだけれど、「加虐」とか「執着」は必ずしも愛情じゃないんですよね。

 愛じゃないものを愛であるかのように感じ取ってしまうしまうことはおそらく問題だろうけれど、なかなかこれは避けがたい。

 それに関してはこういうことを呟いている方もいます。

 そうなんだよなあ。

 「小説家になろう」あたりでも「溺愛」と「執着」はワンセットという印象で、「執着萌え」の根強さには驚かされます。

 「愛があるから執着する」、「愛情の強さと執着の激しさは比例する」というファンタジー。

 いや、この頃、ほんとにただ執着しているだけでほとんど愛情がないように見えるパターンすら見かけるから、ただ「執着されることの快」が感じ取れればそれで良いのか。

 女性の考えることはしょせん男にはわからない――といいたいところだけれど、じつはよくわかってしまうところがまたむずかしい。

 ただやっぱりどうかと思うことはあって、よくある「他の男に対しては冷たい攻めが、受けに対してだけは強く執着する」というパターンなどは、たしかに一見して真摯な愛に見えるだろうけれど、ぼくは必ずしもそうじゃないかもしれないと思うんですよね。

 まあ、もちろん、ただラブラブなだけでは物足りないということもわかる。ポルノには刺激が欲しいということも当然ではある。

 でも、あまりにも「執着=愛」という構図がいつもいつも執拗に描かれすぎていないだろうかと思ってしまいます。

 いや、もちろん、人のシュミは自由だし、それがカタルシスであるというその気持ちはものすごくよくわかるのですが……。

 いま、ピッコマで読んでいる『あなたの子じゃないの』というマンガが執着もので、萌えることは萌えるんだけれど、「尊い」とはなかなかいいづらいなあと思ったりします。

 とりあえずいまの世の中、「男性向け」が過激で暴力的、「女性向け」が穏健で誠実とは一概にいえませんね。

 ええ、いまさらかもしれませんが、男性向けで見られるプレイはほとんど女性向けでも見られるし、愛とか執着というイイワケが使われる分、女性向けのほうがヤバく感じることすら少なくない。

 それが悪いのかというと、もちろん何も悪くない。あくまでフィクションとして楽しんでいるかぎりにおいてはひとつの自由な趣味であるわけですが、「そうじゃないパターン」がもっとあっても良さそうに思えます。

 いったん刺激の強いものを味わってしまうとそうじゃないものは物足りなく感じてしまうのもわかるのですが。激辛ラーメンを食べ慣れるとふつうのラーメンが物足りなくなってしまうようなものか。

 いうまでもなくおっさんのぼくが若い女性向けとされる作品について何かいうのは僭越ではあるでしょう。なのでべつに批判するつもりはないのですが、何だか気になるなあという話でした。

 そこに「愛」はあるのでしょうか?

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