今日も今日とてTwitterを見ていたら(何、X? 知らないな)、なぜか水野良の『ロードス島戦記』がトレンド入りしていました。どうやらブックウォーカーでセールをやっているおかげらしい。
あるいはこのツイートが原因なのかもしれないけれど、よくわからない。
このキャラの名前と、登場するアニメの名前を知っている方いるかなぁ。 pic.twitter.com/eQTGYdLa1G
— 賢龍帝 (@koutei007) 2023年8月2日
いまとなってはファンタジー小説の古典というか、「過去の名作」の位置づけで、あらたに読もうという人もそれほど多くはないと思うけれど、ぼくにとっては青春の一作です。
ぼくがこのシリーズを追いかけていたのはじつに30年以上前、小学生(!)の頃ですが、いまでもパーン、ディードリット、ギム、エト、スレイン、ウッド・チャックらのことは良く記憶していますね。
まあ、それだけ印象的だったのだと思います。この小説のオリジナリティはテーブルトークRPGの「リプレイ」がベースになっているところ。世にもめずらしい「リプレイ小説」なんですね。
ちなみに、コンプティーク版のリプレイでエルフのディードリットを演じていたのは小説家の山本弘さんだったというのも一部では有名な話です。
とはいえ、現在、出版されているバージョンではちゃんと女性が演じているらしいですよ、念のため。
そういうわけで、もうすでに歴史の一部というか、「昔の面白かった小説」という位置づけの『ロードス島戦記』であるわけなのですが、ぼくはとても好きなんですよ。
といっても読んでいたのは10歳(!!!)とかの頃だから、記憶は相当にあいまいなのですが……。
『ロードス島戦記』の舞台はいうまでもなく「呪われた島」ロードスです。この島はテーブルトークRPGの超大作『ソード・ワールドRPG』の舞台「フォーセリア」世界の一部で、北の大陸アレクラストから遥かに離れたところにあるという設定になっています。
で、30年前に「魔神戦争」と呼ばれる大きな戦いがあって、百の勇者と六英雄が――みたいなことを語っていくと切りがありませんが、当時、ぼくは水野良の紡ぐ物語と出渕裕の描く華麗なイラストレーション(特にディードリット!)にそれはそれは魅了されたものです。
日本におけるファンタジーのイメージを決定づけたのは、『ドラゴンクエスト』とこの小説だといっても過言ではないでしょう。
以下の記事に書いたように、いま、当時のファンタジーにただよっていた何ともいえない哀愁のような望郷のようなロマンは失われました。
それはしかたないことだし、変化を拒むと一瞬で老害化するので肯定していきたいところですが、一方で失われたものに非常ななつかしさを感じることも事実です。
そう、『ロードス島戦記』にはまだ「それ」が薄っすらとただよっているように思うのですよ。
もちろん、その当時は『アルスラーン戦記』だの『グイン・サーガ』だの、とんでもないスペクタクル・エンターテインメントの大傑作が絶頂期で、それらにただよう「向こう側の気配」に比べると、だいぶその雰囲気は薄いようにも思えるのですが。
まあ、でも、アニメ(オリジナル・ビデオ・アニメーション=OVA。当時はそういうものがあったんですね)のオープニング、エンディングなんかはあきらかに「そういった雰囲気」を意識していますよね。
いま聴いてもこのオープニングテーマ、エンディングテーマは名曲です。「遥か向こう」への切なるノスタルジアがほのかに匂い立つかのよう。
「この世界の向こう側」、遥かな遥かなイデア世界への切ない望郷――当時のオタク少年少女は一様にこの空気にやられていました。
当時はまだいまのようにコンテンツが飽和していなかったし、その雰囲気」を笑い飛ばすパロディも少なかったので(『フォーチュン・クエスト』はあったけれど)、まだロマンが成立したのです。
ひとつには、この頃、エンターテインメントはいまのように日常の一画に組み込まれたものというよりは、まだ「非日常」の気配を色濃く残していたのだと思います。
現実逃避といえばそれまでだけれど、自分は「どこか遠いところ」の住人であって、それがまちがえてこの世界に生まれ落ちた信じる人にとって(小野不由美の『魔性の子』ですね)、そのようなロマンはつよくつよく訴えかけるものを備えているのです。
この塵のような現世と、どこか遠い「理想世界」の中間にあって、この世界より空気が濃いもうひとつの世界、といえば良いか。
トールキンのミドルアースも、ルイスのナルニアも、そういう「中間世界」だと思っているんですけれどね。
まあ、『ロードス』はまだ「ライトノベル」という概念が存在しなかった頃の小説で、クラシックでヘヴィな海外ファンタジー小説とそののちのほんとにかるく読めるライトファンタジーの真ん中あたりに位置する作品だと思うのですよ。
当時の子供たちはここから『ゲド戦記』やら『ドラゴンランス戦記』やら、もっと重厚なファンタジーの世界へ乗り出していったのです。
少なくともぼくはそうだった。よくわからなかったけれどね、海外ファンタジー。それでも、その雰囲気には酔い痴れたのでした。
この頃のファンタジーには名作も少なくなくて、王領寺静(藤本ひとみ)の未完に終わった(いまふうにいうと「エタった」)『異次元騎士カズマ』とか、いまでもふつうに「なろう」で通用すると思うのだけれど、どうだろう。
あと、『三剣物語』とか、『女戦士エフェ&ジーラ』(のちに『女戦士エフェラ&ジリオラ』に改題)、好きでしたねえ。
これはライトノベルとはいえないけれど、井辻朱美の短編集『エルガーノの歌』の悠久への問いかけよ。
あ、『ロードス島戦記』から話がそれてしまった。まあ、『ロードス』という作品は、いろいろな意味でいまのファンタジーの「原型」を形づくった作品だと思うのです。
その後、よりクラシックな『ロードス島伝説』だとか、正統続編の『新ロードス島戦記』とか、大傑作漫画『ロードス島戦記 ファリスの聖女』とか、『アイテム・コレクション』とか(わかる人にはわかる)、塩野七生の『ロードス島攻防記』だとか(定番のボケ。わかるかなあ、にやにや)、いろいろ出て、いま、『戦記』から百年後の世界を舞台にした『ロードス島戦記 誓約の宝冠』が出ているところなのですが(止まっているけれどね)、まあ、どれも面白い。
水野さんという人は決して小説家として文章が上手いとは思わないのですが、何というか、ていねいに物語を紡ぐ作家さんですよね。
『戦記』最終巻におけるスレインやウッド・チャックの結末なんか、とても良いと思う。素晴らしいですね。
そういうわけで、日本のゲームファンタジーの土台を作った名作『ロードス島戦記』、いま読んで面白いものかどうかは正直わからないけれど、もし興味があったら読んでほしいものです。
もしくはアニメのほうから入る手もある。そっちも良い出来。
「どこかこの世の彼岸なる遠いところ」にある「呪われた島」にして冒険の舞台たるロードスの島は、いまもぼくたちの来訪を待っているはずです。
配信サイト一覧
アニメ版の『ロードス島戦記』は以下のサイトで視聴が可能です。ぜひ、登録して見てみてください。いま見ても作画は美しいですよ。
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