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ポイント50%還元中!講談社文庫の人気作家18人の鉄板代表作を片っ端から紹介しまくってみた。

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 プロライターの海燕です。書評や映画評などを掲載しています。

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 それでは、本文へどうぞ。

【はじめに】

 Amazonを見ていたら、講談社文庫が50%ポイント還元の大幅セールになっているようなので、宣伝します(ただしいつまでセールが続いているかはわからないので、その点はくれぐれもご注意ください)。

 もう、ただ、それだけの記事です。最近、こういう記事をやたら書いているなあ、ぼく。書きやすいんだよね。

 講談社文庫といえば本格ミステリで知られており、いわゆる「新本格」の揺籃としてムーヴメントを支えたレーベルですが、細かく見ていくと、ミステリ以外にもスペースオペラやらファンタジーやらを出しています。

 そこで、今回は18人の作家、その代表作(のなかでぼくが読んだことがあるもの)を紹介してみました。作家が18人となると、その作品は自然、数倍になるわけで、おかげで書影がたくさん並ぶこととなっています。読みにくかったらてきとうに飛ばして読んでみてください。ごめんよ。

 さて、それでは行きましょう。一番手は、この人です。

【①没後数十年、いまだにその強烈無比な存在を感じさせる伝説の巨匠――山田風太郎】

 山田風太郎はいわずと知れた(没後数十年が経ついまとなっては知らない人もいるかもしれないが)戦後小説を代表する天才娯楽作家である。山風のまえに山風なく、山風のあとに山風なし――そのあまりにオリジナリティあふれる奇想と伝奇の世界は、いまなお余人の追随を許さない。

 もはや伝説上の人物でありながら、現代の作家として充分に通用するエンターテインメント性を持つその個性はまさに唯一無二といって良いであろう。

 講談社文庫では天野喜孝の表紙イラストレーションが華麗な『山田風太郎忍法帖』シリーズを読むことができる。いずれ劣らぬ傑作ぞろいだが、あえてそのなかからオススメを選ぶなら、やはり『甲賀忍法帖』、『風来忍法帖』、『くノ一忍法帖』、『柳生忍法帖』、『魔界転生』あたりになるだろうか。

 殊に柳生十兵衛を主人公にした『柳生忍法帖』と『魔界転生』は、ぼくの読書人生でも傑出して面白い二作であった。

 『伊賀忍法帖』、『忍法八犬伝』も十分面白いんだけれど、山風のなかでは「中くらいのレベル」なんだよなあ。ひええ。

【②ザッツ・エンターテインメント、小説とゲームで活躍する才気の塊――奈須きのこ】

 奈須きのこである。きのこといえばTYPE-MOONであり、また『Fate』であることは論を待たないわけだが、ざんねんながら『Fate』シリーズは講談社では出ていない。出ているのは「らっきょ」こと『空の境界』である(『DDD』は――うん、まあ)。

 この世のあらゆるもののなかに「死にやすい線」を視てしまうという得意な魔眼を持った少女・両儀式を主役にしたシリーズ。

 このめちゃくちゃにオリジナルな設定はのちに同人ゲーム史上の大傑作『月姫』に応用されて多くの人を感嘆させることとなる。まだまだ荒削りであることは間違いないが、設定といい、物語といい、キャラクターといい、圧倒的な独創性をそなえた天才的な物語作家の萌芽を見て取ることができるのはたしかだろう。

 ただ、この頃の奈須きのこははっきりいって文章がへたで、悪文の典型といいたいような記述が続いているのだが、内容の面白さは読者を圧倒する。結局のところ、文章の良し悪しなどは、小説においてたいした意味を持たないのかもしれない。

【③猟奇ミステリからほのぼのシリーズまで、多彩な顔を持つ凄腕作家――我孫子武丸】

 我孫子武丸。この作家といえば、猟奇ミステリの傑作にして、ネタバレを避けると何もいえなくなることで有名な『殺戮にいたる病』だろう(ほんとうはネタバレを避けたほうが良いということもいわないほうが良いのかもしれない)。

 いわゆる新本格ムーヴメントのなかでもきわめつきの傑作であるわけで、「とりあえず読んでおけ」クラスの作品であることは間違いない。ただ、講談社における我孫子武丸の作品だと、ぼくは他にも好きなものがある。

 たとえば、『殺戮にいたる病』とはまったく異なるほのぼのとした読み味が素晴らしい〈人形シリーズ〉。いや、このシリーズ、好きなんだよねー。本格推理の歴史に残るような傑作ではないかもしれないが、読後感が爽やかで、読んでいて快い。

 まあ、何しろ昔の作品ではあるので、いまとなっては古びた小説になってしまってはいるかもしれないが、いわゆる「コージィ(居心地が良い)ミステリ」を求めておられる方にはオススメ。『0の殺人』、『メビウスの殺人』もちょっと面白いです。

【④めざせ、エラリイ・クイーン! いまもまだ本格の王道をゆきつづける作家――有栖川有栖】

 有栖川有栖といえば、本格ミステリ史上、最も同人人気の高い作家である(違)。ごほん。まあ、それはともかく、アベレージの高い本格作品を延々と生み出しつづけているという意味で、めったにいない作家には違いない。

 その作品のなかで、講談社文庫で読めるものは、いわゆる〈作家アリス〉――探偵・火村英生と友人の有栖川有栖を主人公としたシリーズだ。そのシリーズのなかにさらに〈和製国名シリーズ〉と呼ぶべきシリーズがあり、それらはどれもなかなか面白い。本格としてのアベレージを保っている。

 しかし、やはりこのシリーズの最大の魅力はキャラクターにあるのではないだろうか。本格としては「悪くない」くらいに留まる短編「ロシア紅茶の謎」なども、火村のかっこ良さを味わう小説として読むと、これはもう絶品である。

 そのほか、〈国名シリーズ〉のなかでは「スイス時計の謎」が傑作だった。旅行先で眠れない夜を過ごしながら読んだ本で、そういう意味でも忘れがたい。

 『幽霊刑事』も面白かった記憶がある。ただ、珠玉の本格を求める向きは(講談社文庫ではないが)、おとなしく〈学生アリス〉のほうを読みましょう。

【⑤ミスター・エンターテインメント、百花繚乱なキャラクター小説の生みの親――田中芳樹】

 田中芳樹。もちろん、『銀河英雄伝説』や『アルスラーン戦記』で知られる架空歴史小説の巨匠である。たぶん、日本でも最も多彩で魅力的なキャラクター小説の生みの親といっても良いのではないだろうか。

 その田中芳樹の数ある作品のなかで、講談社文庫で読めるものといえば、『創竜伝』や『薬師寺涼子シリーズ』、『タイタニア』ということになる。

 『創竜伝』はいわゆる伝奇バイオレンス小説の常識を破壊しまくった作品で、いま読むとその左翼思想的な政治批判、国家批判がいささか時代おくれの印象になってしまってはいるかもしれないが、それでも相当に面白いはず。CLAMPがイラストレーションを担当しているのも注目だ。

 だが、ここはあえて『タイタニア』を推しておこう。田中芳樹のスペースオペラといえば『銀英伝』に尽きることは間違いなく、『タイタニア』がそれに比肩する作品だとはいえないが、それでも(とりあえず第3巻までは)めちゃくちゃ面白い。いや、ジュスランとアリアバート、ひたすらかっこいいです。未読の方にはオススメ。

【⑥特殊設定ミステリを洗練のきわみまで持って行ってしまった人――相沢沙呼】

 今回、相沢沙呼を取り上げるべきかどうかは迷った。というのも、ぼくはこの作家を『霊媒探偵城塚翡翠』のシリーズしか読んでいないからである。ひとりくらい減らしてもあまり変わらないだろうし、あえて削ってしまうべきかとも思った。

 しかし、〈城塚翡翠シリーズ〉、殊に『medium』はここ10年の本格シーンのなかでもおそらく指折りの傑作なので、やはり語っておくことにした。

 『medium』はいわゆる「特殊設定ミステリ」の代表格といって良い作品で、「特殊設定ミステリ」の可能性そのものを大きく開いた一作といっても良いと思う。霊媒能力を持つ少女と、その話を聴いて事件を解決する探偵という構図は、しかしきわめて精緻な本格としての論理と崩壊にたどり着く。

 エンターテインメントとして見るとキャラクターが弱すぎるように感じられるところもあるが、細部にまで気を遣った王道の本格を読みたいという向きには(特殊設定ものではあるものの)、大いに推薦できる一作といえる。『medium』以降もシリーズが続いている点も驚愕。

【⑦最も緻密なロジックを展開する巨匠エラリイ・クイーンの後継者――法月綸太郎】

 本格ミステリの黄金時代といえば1930年代である。クリスティ、クイーン、カーなど、きょうでは大巨匠として知られる作家たちが百花繚乱の活躍を遂げ、後世に残る名作をいくつも生み出した。いまとなっては、100年近くもまえのことということになるだろう。

 法月綸太郎はクイーンの黄金時代の傑作に追随する小説を書きつづけている作家である。その作品のクオリティの高さに比して寡作で、とくに最近はなかなか新作を読めなくなってしまってはいるが、それでも優れた本格の書き手であることは間違いない。

 とくに精緻な推理のロジックを展開する点において、講談社文庫では麻耶雄嵩あたりと並んでトップクラスの作家といって良い。

 講談社文庫では同名の探偵・法月綸太郎を主役にしたシリーズが読める。そのなかでは(初期作品ばかりだが)タイトな正統派本格の『雪密室』、逆転また逆転の『誰彼』、衝撃の結末が待つ『頼子のために』、混沌そのものの『ふたたび赤い悪夢』、短編集『法月綸太郎の冒険』と『新冒険』あたりがオススメか。デビュー作の『密閉教室』も西尾維新ばりの戯言小説で楽しい。

【⑧思わず涙が湧き出てくる感動の作品を綴る物語作家――辻村深月】

 辻村深月はいまとなっては知らぬものとてないベストセラー作家だが、彼女のキャリアは講談社での小説から開始している。

 『冷たい校舎の時は止まる』に始まって、『凍りのくじら』、『ぼくのメジャースプーン』などを講談社で発表しているようだが、ぼくのオススメはなんといっても『スロウハイツの神様』、これに尽きる。

 もし、ぼくが小説の結末にこだわるタイプの読者だとして、記憶にのこる結末を列挙していくとしたら、『スロウハイツの神様』は必ず選ばなければならない。

 そのくらい、この小説の怒涛の結末は(奇妙な表現ではあるが、ほんとうにそういうふうにしか形容できないエンディングなのだ)、一読、忘れがたいものがある。「ここまでするか!」といいたくなるくらい、徹底した細部と伏線へのこだわりが素晴らしいとしかいいようがない。

 また、これは「物語の力」に関する物語でもあり、その点でも読書オタク必読といえる。ちなみに、『かがみの孤城』のアニメ映画もなかなか良かったです。

 

【⑨みずから己の尾を食らうウロボロスの世界を生み出しつづける実力派作家――竹本健司】

 竹本健治といえば『匣の中の失楽』、『匣の中の失楽』といえば竹本健治、そういいたくなるくらいこの「衝撃のデビュー作」は有名だ。わずか23歳にしてこの作品を書き上げた稀有な才能はまさに瞠目に値するものといって良いだろう。

 ある一作の小説のなかで、「虚構」と「現実」が次々と反転しつづけ、最後には何が現実なのかわからなくなってしまう、そういう工夫を本格ミステリという枠のなかで、中井英夫ばりの「反世界小説」として展開してのけたこの作品は、まさに後世に残すに値する。

 伝説的な推理小説の異形作『ドグラ・マグラ』や『黒死館殺人事件』、『虚無への供物』と並べて「四大奇書」のひとつとされていることもむべなるかな。

 きわめて非現実的というか、およそ小説というジャンルにおいて、最も人工性の高い部類に属する「反自然」的な作品ではあるし、やはり若書きで生硬なところも少なくないので人は選ぶだろうが、ミステリ好きなら読んでおいても損はないはずだ。

 講談社文庫ではその他には『ゲーム三部作』、『ウロボロスシリーズ』などがある。

【⑩本格推理そのものを崩壊させるカタストロフィのマエストロ――麻耶雄嵩】

 麻耶雄嵩は、おそらくは現代ミステリにおける最高にして最大の鬼才である。その作品はいずれも本格としてのクオリティがきわめて高く、細部に至るまでかぎりなく精緻に形づくられている。

 しかし、麻耶雄嵩の場合、その「パーフェクトな本格」はさらなる崩壊を呼び起こすための下準備でしかないことが少なくない。「ああ、美しい本格だったな」と思って納得すると、そこから先に途方もない失楽園とでもいうべきカタストロフィが待ち受けているのだ。

 デビュー作『翼ある闇』の時点ですでにそうだった。このような作家はまさにワン・アンド・オンリーで、他に類例はまったくない。

 さまざまな小説を大量に読み漁り、あたりまえの傑作ではもはや満足し切れないといった読者は、かれの蜜のような毒のような作品に魅せられることだろう。初心者は近寄らないほうが良いかもしれない。

 そのなかでも第二作『夏と冬の奏鳴曲』の破壊力は史上空前。新本格史上おそらく最も凶悪な一作だ。短編集『メルカトルと美袋のための殺人』、『メルカトルかく語りき』、『メルカトル悪人狩り』もすこぶるクオリティが高くかつ邪悪なので、マニアにはオススメ。

【⑪本格の概念を拡大し拡散させ骨抜きにした最凶の殺し屋――清涼院流水】

 おそらく講談社の「新本格」ムーヴメントのなかで、最も賛否両論を呼んだ作家、それが清涼院流水である。清涼飲料水をもじったその筆名からしてあきらかなのだが、とにかくふざけた作家なのだ。

 それも、大真面目にふざけているので、一見すると案外まともな作家なのかもしれないという期待をもたせられる。それがトラップで、まともなミステリを期待して読むと、必ず(そう、必ず)盛大な肩透かしを食うことになる。

 まず、たいていの人が「いやいやいやいや、オチはそれかよ」と思うような小説ばかり書いている。

 ただ、とりあえず『コズミック』一作は読んでおいて良いと思う。それで「ふざけるな!」と思わなかったなら(いや、そう思う人がたくさんいるようなので)、次に『ジョーカー』も読んでおくと良いだろう。

 その先は――まあ、読まなくても良いかなあ。とにかく、他に似た作家がいない規格外の小説家であることは間違いないので、ものは試しと読んでみるのは悪くはないはず。意外に気に入るかもしれないし。壁に投げつけたくなってもぼくは知りませんが。

【⑫現代ミステリを代表する伝説的作家にして妙なる奇想の演出家――島田荘司】

 島田荘司である。いま存命のミステリ作家のなかでは、おそらく最大の巨匠といって良いのではないだろうか。

 名探偵・御手洗潔の初登場作でもある伝説的な傑作『占星術殺人事件』でデビューし、その後、『異邦の騎士』、『斜め屋敷の犯罪』など、後世に残る作品をいくつも出しつづけてマエストロの地位を確立した。御手洗潔を主人公にした短編集にも奇想天外な作品が収録されていて読ませる。

 ただ、「ミステリとしては三流、ホラーとしては一流」とも評されることがある『暗闇坂の人食いの木』あたりから作風が変わり、『水晶のピラミッド』や『アトポス』あたりはもはやミステリでないほうが面白いのではないかと思ってしまうような作品になっている。

 いっぺん、その強引なまでのストーリーテリングの辣腕をもちいて、非ミステリ作品を書いてほしいものなのだが、本人はあくまでミステリにこだわりがあるのだろうな。それもまた良し。

 それにしても、最新作のあたりは未読なのだが、御手洗と石岡くんはいつ再会できるのだろうか。いずれかが老死するまえにその話を書いてほしいなあ。無理だろうか。

【⑬本格推理からマンガ原作まで手掛ける「異質」にして「異様」な才能――西尾維新】

 西尾維新は、かつて「京都の20歳」と呼ばれてデビューした作家だった。その登場作は『クビキリサイクル』。

 この作品を初めて読んだときの衝撃を、わかってもらえるだろうか。何というか、オタク的な美少女文化そのものが二段飛ばしくらいで進化したところを目撃したような、そんなインパクトがあったのだ。

 さまざまな分野の天才たちが集まる孤島で巻き起こる連続殺人事件といえば、古式ゆかしきあたりまえの本格のようだが、この作家が生み出す世界はそれまでの本格とは決定的に異質だった。のちに「脱本格」と呼ばれることになるシリーズは、ここに始まったのだ。

 その後、この作家は阿良々木暦を主人公とした『物語シリーズ』などでベストセラー作家の地位を確立する。いまとなってはその作品数は膨大で、とても書影を並べきれないほどなのだが、やはり『クギキリサイクル』から『クビシメロマンチスト』、『クビツリハイスクール』、『サイコロジカル』、『ヒトクイマジカル』、『ネコソギラジカル』と続く〈戯言シリーズ〉は読んでおいても良いだろう。

 〈物語シリーズ〉のほうは、まあ、好きなところまで読めば良いのではないかと。

【⑭怜悧にして冷徹、そしてロマンティックな論理を紡ぎ出す奇妙な作家――森博嗣】

 森博嗣は、いまや「ユニバース」といいたいような巨大な作品世界を作り上げてしまった。その中心となっているのは、〈S&Mシリーズ〉、〈Vシリーズ〉、〈四季〉、〈Gシリーズ〉、〈Wシリーズ〉などを中心とする作品群だ。

 とりあえずミステリとして始まったシリーズが、いまやSF的といいたいような世界を形づくっているわけで、この作家の構想力はどうなっているのか、ちょっと理解を絶しているものがある。メフィスト賞が生んだ最高の才能といって良いだろう。

 その代表作となると、やはり『すべてがFになる』になるのだろうが、そこから続く『冷たい密室と博士たち』、『笑わない数学者』、『封印再度』、『今はもうない』、『有限と微小のパン』、『黒猫の三角』、『赤緑黒白』、『四季』などの作品も絶品である。

 べつだん、シリーズの一作を読んでいないからといって他の作品が理解できなくなるということはないので、どの作品からでも良いから手をのばしてみたらよいと思う。「人類史上最高の天才」真賀田四季が君臨する世界があなたを待っている。

【⑮膨大な情報を繋ぎ合わせてひとつの物語を紡ぎ出す唯一無二の妖怪博士――京極夏彦】

 講談社文庫の作家として、京極夏彦を外すことは、当然ながらできない。というか、おそらく講談社文庫の作家からひとりだけを選ぶとするなら、京極夏彦になるのではないだろうか。

 その登場は、まさに衝撃だった。『姑獲鳥の夏』という分厚い作品でデビューし、各界の話題をさらったかと思うと、さらに厚い『魍魎の匣』、『狂骨の夢』、『鉄鼠の檻』、『絡新婦の理』といった作品を続けざまに発表していったのである。

 それはいままでのミステリの法則そのものを換骨奪胎してしまうような異様にして異形の作品群であった。

 森博嗣と同じく、京極夏彦の世界もひとつの〈ユニバース〉を形成している。それぞれは独立した作品でありながらどこかで連続しているだけに、いったいどこから読んだら良いものかと迷ってしまうのだが、これも森博嗣の作品と同じく、どこから読んでも良いのだろう。

 もしどうしても迷うようだったら『魍魎の匣』か『絡新婦の理』からにしておきましょう。いずれもとんでもない傑作です。

【⑯かずかずの特殊設定ミステリを生み出し、日本に定着させた人物――西澤保彦】

 いま、本格ミステリの世界では『medium』、『名探偵のいけにえ』など、いわゆる「特殊設定ミステリ」が花ざかりである。

 これはあるスーパーナチュラルな条件のもとで初めて成立するたぐいの本格ミステリのことで、「どれほど得意な状況であっても、その世界のルールさえあきらかであるのならミステリは成立する」ことを前提とした作品群を指している。

 そして、現代日本において、その特殊設定ミステリを定着させたのは、この西澤保彦だといって良いだろう。『七回死んだ男』ではループするシチュエーションにおいてなぜか犯人を変えて起こる連続殺人を、『瞬間移動死体』ではテレポーテーション能力を持つ男の犯罪を描くなどし、業界で話題をさらった。

 また、〈タック&タカチシリーズ〉ではそれとはまた違う、センチメンタルでいて理屈っぽいキャラクターたちの物語を描いて、多くの読者を感動させた。なかでも『依存』は傑作である。

 というか、ぼく、このシリーズの続きを待っているんだけれど、いま、どうなっているんだろ。とりあえず『七回死んだ男』はマストなので、読んでおくと良いと思います。ふつうに傑作です。

【⑰名探偵伊集院大介の生みの親にして、空前の天才ストーリーテラー――栗本薫】

 去る者は日日に疎し。一世を風靡した栗本薫も、いまとなっては過去の作家となってしまった。しかし、その名探偵・伊集院大介を主人公にした作品の輝きは、永遠である。

 とくに大介のデビュー作『絃の聖域』は本格史上に残る作品で、そのクライマックスの圧倒的な迫力は他に匹敵するものが見いだしづらいほどのものだ。

 その大介の大学生時代のできごとを、のちにかれのワトスンのひとりとなる少女の視点から描いた『優しい密室』も良いし、それに続く『鬼面の研究』もなかなかである。短編集『伊集院大介の冒険』、『伊集院大介の私生活』も、地味ではあるが、ハイクオリティ。

 ただ、本格ミステリとして読ませるものはこのくらいで打ち止めで、その後は恋愛小説の絶品(ほんとに絶品。個人的な恋愛小説ランキングのトップクラスに入るくらい)の『猫目石』、なぞの犯罪者シリウスの連続殺人を描き出す『天狼星』などへ続いてゆく。

 そしてそのさらに後となると、『絃の聖域』を超えるべく構想されたという『女郎蜘蛛』がかなり読ませる。わりに冗長ではあるが、切々と胸に染み入るような結末が印象的な作品である。

【⑱いまなおその魅力は色褪せぬ、「反転」に拘ったレジェンド作家――連城三紀彦】

 連城三紀彦は本格推理における「レジェンド」の一人である。ほとんど天才的な小説の才能に恵まれたひとで、生涯、作家として傑作を生みだしつづけた。かれの作品の特徴は、そのなかのある一行を読んだ瞬間、それまで見えていた風景が決定的に変わってしまう「反転」にあるとされる。

 だが、驚愕に値するようなトリックを仕込む作家なら他にもいる。いったい連城の何がそれほどまでにとくべつなのだろうか。それは、ひとえにトリックを「一本の小説」として完成させるそのスキルの異常なまでの高さに尽きる。

 本格ミステリは、よほどの傑作といわれる作品であっても、そのトリックやロジックに集中するあまり、「小説としてはちょっとね」というような出来になってしまっている作品が少なくないが、連城においてはそのようなことがまったくないのだ。

 「小説」としての完成度と、「ミステリ」としての品質を、いずれも極限まで高めた作品を描いたのが天才・連城であった。講談社文庫では、米澤穂信、小野不由美など後輩の作家たちがその華麗なる作品世界に感嘆する『連城三紀彦レジェンド』と、その続編を読むことができる。

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