KADOKAWAの最大50%還元セールに便乗して時代小説からファンタジーまで、傑作を並べてみた。

KADOKAWAの傑作小説を紹介してみる。

 早川書房のセールに便乗して本を紹介したらアフィリエイトでちょっと儲かったので(笑)、二匹目のどじょうをねらってKADOKAWAのセールに合わせ、小説を紹介してみます。さすがに無視されて終わるような気もしますが、まあ、それはそれで。

 KADOKAWAの場合、ハヤカワと比べても多彩なジャンルの小説があるので、ほんとうにキリがないのですが、ぼくが読んだことがある本のなかから出色の作品を選んでみました。最大50パー還元のセールは本日17日までなのでご注意ください。

●時代小説

冲方丁『天地明察』

 『マルドゥック・スクランブル』などのシリーズでも知られる冲方丁の最大のベストセラー。「暦」という世界を律する理(ことわり)に目をつけた秀逸さがまず素晴らしい。そして、それを一個のヒューマンドラマとして昇華してのけた手腕が冴えている。ふだん、時代小説を読まない人にオススメできる一冊かと。

山田風太郎『柳生忍法帖』

 戦後日本のエンターテインメント小説のなかでもおそらく最高の傑作である。ある種の復讐ものではあるのだが、それ以上に「柳生十兵衛」というキャラクターを印象づけたヒーロー小説の白眉というべきだろう。『魔界転生』とは相互に独立した姉妹編の関係にあるが、十兵衛のかっこ良さをとことんまで味わいたいなら両方とも読むべきだろう。

山田風太郎『魔界転生』

 先に『柳生忍法帖』について「戦後日本のエンターテインメント小説のなかでもおそらく最高の傑作」と書いた。その言葉に一切の嘘偽りはないのだが、それでも、じっさいのところ、この『魔界転生』は『柳生忍法帖』よりさらに面白い。もはや日本がどうこうという次元を超えて、人類エンタメの至宝ともいうべき究極の名作というしかない。剣の魔性に憑かれた男たちの物語なのだ。

山田風太郎『八犬伝』

 へんくつ者の作家・曲亭馬琴が大名作『南総里見八犬伝』を生み出すまでを綴った「実」の章と、その生み出された物語のなかの八犬士たちの活躍を描く「虚」の章を交互に描くという変わった構成の小説。もちろん、そこは山田風太郎、ただ、それだけにはとどまらない。「虚実」は最後には「冥合」し、大感動のクライマックスを演出するのである。創作についての小説というべきか。

●SF

池上永一『シャングリ・ラ』

 池上永一のもっとも荒唐無稽な小説。SFというフレームに入れて良いのかどうかも良くわからないくらいなのだが、とにかくまあ、面白いことはまちがいない。加速する温暖化を阻止するため森林化を遂げた未来の東京を舞台に繰りひろげられる物語の壮大なる展開を見よ! しかし、たしかにこれは直木賞は取れそうにない小説だよなあ。めちゃくちゃだもん、いろいろ。

小松左京『復活の日』

復活の日

復活の日

  • 草刈正雄

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 新型コロナ・ウィルス騒動でふたたび注目を集めたりもしたパンデミック小説である。疫病テーマの小説はたくさんあるが、じっさいに人類文明が滅亡してしまうところまで詳細に描き出した作品はそう多くはないだろう。その人類壊滅にいたるまでの展開のもっともらしさに小松左京の天才は宿る。映画も傑作というウワサですが、ぼくは観ていません。

小松左京『日本沈没』

 いわずとしれた『日本沈没』。日本が高度経済成長のただ中にあるとき、もし日本列島がすべて沈没してしまうとしたら――というコンセプトで詳細にシミュレーションを行ったカタストロフィ小説の大傑作。コンピューターもろくにない頃に実施された計算の精密さは驚くべきものがあり、それ以上に一本の小説として一個のエンターテインメントとして、破格に読ませるのであった。

小松左京『果しなき流れの果に』

 『果しなき流れの果に』。日本のサイエンス・フィクション小説の、おそらくは無二の最高傑作である。ちょっと「ワイドスクリーン・バロック」という言葉を使いたくなるような、破格にして荒唐無稽の展開を続けながら、数十億年に及ぶスケールの物語を超未来に至るまで綴っていく、そのストーリーテリングの妙技はまさに唯一無二。まさにこれぞSF!というしかない作品。

半村良『太陽の世界』

 全80巻をめざして刊行されたシリーズ。栗本薫の『グイン・サーガ』は、半村良が80巻をめざしていると聞いて、「じゃあ、わたしは100巻をめざそうかな」といったところから始まったそうです。じっさいにはこの『太陽の世界』は全18巻で終わったのだが、それでも大長編であることに間違いはない。いまとなっては古い作品ではあるが、その読みごたえはかなりのもの。

光瀬龍『宇宙年代記【合本版】』

 こ、これ! ぼく、好きなんだよなあ。科学技術をきわめ、宇宙へ進出していく人類数千年の年代記――と、こう書くとあたかも夢のあるスペース・オペラかなにかのようだが、実際にはあまりにも広大な宇宙をまえにして「死」と「滅び」、そして「虚無」と向き合わざるを得なくなった人類、永劫の哀しみを描き出した物語なのだと思う。後世への影響は大きい。

森見登美彦『ペンギン・ハイウェイ』

 天才少年、「ソラリスの海」と出逢う、というお話。人類SFの最高傑作である『ソラリス』をジュヴナイルにしてしまうというこの発想がまず秀逸。それを青春の哀しみを絡めて織り成してしまうあたり、この作家は天才なのではあるまいか。アニメ映画版もなかなかの出来だったので、そちらと合わせて読んでいただけるとよろしいかと。

山田正紀『神狩り』

 「神狩り」――奇才・山田正紀の伝説のデビュー作である。この小説の特色は、「神」といういわば抽象のきわみのような存在を、人類の認識可能な論理構造を超越した存在として描写し、じっさいに物語のなかに降臨させたところにある。「神」をテーマにしたSFは、この一作をもってひとつのターニング・ポイントを迎えたといっても良いだろう。短くて読みやすいです。

山本弘『神は沈黙せず(上)(下)』

 山本弘の長編最高傑作。この作家をして数年間をかけて書き上げたという大長編だ。紛れもないSFではあるものの、「神」という究極の謎をテーマにしたミステリでもあるという作品で、最終的には「神」の謎が解けてしまう(!)。思想的には良くも悪くも山本弘らしく、くせがつよいことは否めないが、嵌まる人は嵌まるだろうと思う。

●ミステリ

青崎有吾『地雷グリコ』

 本格ミステリ大賞を初めとする文学賞三冠で話題絶頂の作品。ひとつの本格ミステリとしてきわめて高い評価を得ているわけだが、むしろ『カイジ』や『逆転裁判』などの系列として読むべき作品かもしれない。まあ、細かい理屈はどうでも良いので、ユニークなゲーム小説の傑作として読めば良いだろう。最終的にはかなりすごいところまで行ってしまうのです。

赤川次郎『三毛猫ホームズの推理』

 赤川次郎のスーパー・ベストセラー・シリーズ『三毛猫ホームズ』の第一弾。ほんとうなら『三毛猫ホームズの冒険』と名づけられる予定であったという。この後のシリーズは良くも悪くも予定調和、マンネリのエンターテインメントになるが、この第一作だけは違う。読むものを呆れさせるトンデモトリック(?)を含め、きわめてよく構築されている。初期赤川次郎のすごさを知れ。

綾辻行人『Anotehr』

 綾辻行人は紛れもない本格ミステリの作家ではあるが、同時にある種のゴシックな「美学」に耽溺する人でもある。そのダークで陰惨な「美学」は『人形館の殺人』や『殺人方程式』などの作品でも見て取ることができるが、最も濃く表れているのはこの『Anotehr』のシリーズだといって良いのではないか。アニメ化もされて知名度も高い作品ですね。

綾辻行人『殺人鬼』

 殺人鬼が、やって来る。すべてを殺し、壊し、恐怖のあぎとで呑み込むために。綾辻行人の全作品のなかでも異色作というしかないグロテスク・ホラー。とにかくめちゃくちゃ陰惨な人体破壊のかぎりが尽くされるので読む人を選ぶことはまちがいないのだが、それにもかかわらずある種の哀切さと品格と、そして驚愕の展開が印象に残る作品である。とっても綾辻さんらしい小説。

綾辻行人『霧越邸殺人事件』

 『殺人鬼』を綾辻行人最大の異色作とするのなら、この『霧越邸殺人事件』は「表の代表作」とでもいうべきだろう。いまの「特殊設定ミステリ」に通じるようななかなかとんでもない設定なのだが、それにもかかわらず一本のミステリとして端正としかいいようがない物語に仕上がっている。そして名探偵登場による解決編を経た結末は藍色の哀しみに充ちているのであった。

乙一『GOTH』

 乙一が本格ミステリ大賞を受賞し、いよいよ世評を高めた一作。「ゴス」というテーマを、一切のゴシック的な意匠を排し、ただその純粋な精神だけで描き出した驚異の殺人小説である。次々と出て来る殺人鬼たちが、しだいに「弱者」の様相を呈して来るあたりが何とも乙一らしいというべきか。この作家以外にはだれにも書けない、まさに心からそう思わせる小説だ。

馳星周『不夜城』

 ジェイムズ・エルロイに私淑する作家のデビュー作。当然ながらいわゆる「暗黒小説(ノワール)」である。ノワールというジャンルは、必然、悪が栄えて終わるストーリーになるわけで、そこに暗い火のような情熱と徹底して計算され尽くしたプロットがなければ凡庸かつ退屈に終わるわけだが、『不夜城』の時点での馳作品にはそれがそろっている、と感じる。

初野晴『ハルチカシリーズ』

 初野晴の青春ユーモアミステリ「ハルチカ」シリーズのシリーズ。このシリーズ、とにかく軽快で、なおかつトリックの切れ味も鋭く、ぼくは大好きなのだが、なぜか完結を目前として続きが出なくなってしまった。それはまあ残念至極なのだけれど、基本的には一冊一冊完結しているので、あまり気にせず読んでください。米澤穂信の「古典部」に比肩すると思う。

横溝正史『本陣殺人事件』

 横溝正史の名探偵・金田一耕助最初期の一冊。いわゆる「糸と針」などといわれる機械的トリックによる密室殺人の最高峰である。「密室の成立させようがない」といわれる日本家屋のなかでそれでも密室殺人を成立させた作品といわれるが、ちょっとした矛盾などはいろいろ指摘されているもよう。でもまあ、ミステリってそれはそれで読むに値するものだよね。

横溝正史『獄門島』

 「気違いじゃがしかたない」という有名なセリフでしられる、本邦本格ミステリの最高傑作のひとつ。トリックがどう、ロジックがこうというよりは、そのひたすらなる日本的美学の世界のすばらしさに目を留めるべきだろう。いやはや、頽廃ここにきわまれりというか、何もかもが夜の美学に染め抜かれているかのような一個の人工世界なのである。まさにある種の「陰翳礼賛」の世界。

米澤穂信『古典部シリーズ』

 いまとなっては超有名になってしまった米澤穂信の代表作。面白いことはまちがいなく面白いのだけれど、数年に一冊新作が出るかどうかという刊行ペースの遅さが哀しい。いったいぼくたちのえるえるはこの先、どうなってしまうんだ! 「いまさら翼といわれても」という思わせぶりなタイトルの第六作でシリーズが止まっているけれど、とにかく早く書いてほしい。わたし、気になります!

●ファンタジー

荻原規子『西の善き魔女』

 荻原規子という作家、「西の善き魔女」というタイトル、そしてこの表紙イラストから、いかにも正統なジュヴナイル・ファンタジーが想像されるところかもしれないが、ところがどっこい、これはじつにじつにとんでもないメタ・ファンタジーの一大傑作なのである。ある種の「ヒーローの物語」を「ヒロインの視点」から解体してのけた、そういう作品といっても良いでしょう。

マーガレット・ワイス&トレイシー・ヒックマン『【合本版】ドラゴンランス全25巻』

 『ドラゴンランス』25巻の合本(笑)。40000円以上するわけだけれど、これを本日17日のうちに購入すると20000ポイント以上が返ってきます。いや、べつにむりに買わなくても良いとは思うけれど、お買い得なのはたしかなので、ラインナップに含めてみました。世界的ベストセラーになった作品なので、内容の面白さは折り紙付き。長く楽しめる作品をお求めの方はどうぞ。

C・S・ルイス『新訳ナルニア国物語』

 近代ファンタジー小説の歴史上、トールキンの『指輪物語』と並んで評価される『ナルニア』の新訳です。昨今の金太郎あめファンタジーとくらべると、圧倒的に独創性が高い作品といって良いでしょう。小野不由美の『十二国記』に巨大な影響を与えていることは、読んだ人には歴然としていますね。近代キリスト教文学の最高作でもあるともいえます。

●ライトノベル

顎木あくみ『わたしの幸せな結婚』

 現代のシンデレラ・ストーリーです。女の子はいつの時代もやっぱりシンデレラが大好き――なのかどうかは知りませんが、とりあえずこの小説はベストセラーになりました。あえていうなら伝奇小説風味を足してあるところがオリジナリティなのかも。映画版も意外に(といっても良いと思うのだけれど)かなり良いクオリティで、続編が待ち望まれます。

唐辺葉介『つめたいオゾン』

 知っている人は知っていることに、ゲームシナリオライター・瀬戸口廉也が別名で物した小説です。この人もひじょうに天才的な作家なのだけれど、一部のマニアックな読者を除いてはほとんど知名度がないといって良いでしょう。じっさい、ひたすら陰鬱な作風なので、一般ウケはしないとは思うのだけれど、しかしこの人だけにしか書けない世界が紛れもなくあります。傑作です。

新海誠『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』『君の名は。』『天気の子』『すずめの戸締まり』

 ぜんぶまとめて紹介してしまいましょう。新海誠の映画ノベライズシリーズです。ふつう、映画監督や脚本家が書いた小説なんてそうそうろくなものにはしあがらないはずだと思うのですが(実例がたくさんある)、新海さんは恐ろしいことに文章までうまく、小説として一級品になっています。いや、ふつうにプロ作家としてたべていけるでしょ、この人。才能ある人っているんだなあ。

高畑京一郎『タイム・リープ あしたはきのう(上)(下)』

 これはね、名作です。この小説を読んできらいになったという人はほとんどいないのでは、というくらい世評の高い作品。タイムトラベルと青春恋愛小説をかけ合わせた、いってしまえばそれだけのシロモノではあるのだけれど、その時間パズルの完成度が異常なまでに高いところに特色がある。じつに爽やかな感動が残る結末が素晴らしく、くり返し読んでみたくなります。

滝本竜彦『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』

 このタイトル、かっこいいよなあ。センス抜群。のちに『NHKへようこそ!』などの作品で知られることとなる滝本竜彦のデビュー作です。このときはその衝撃的な内容にインパクトを感じ、またひとりすごい作家が出た来たと思ったのですが、その後、かれは迷走に迷走を重ねることになります。でも、この作品は傑作。暗い青春の焦燥感と疾走感がたまりません。

●一般小説

あさのあつこ『バッテリー』

 あさのあつこの名高い野球小説。というか、野球を通してひとりの「少年という名の生きもの」を描き出した小説であるという気がする。森絵都の『DIVE!!』などもそうだが、少年を描くときには潔癖なまでに純粋に目標重視な描写が可能であるのに対し、いったん少女を描くとなるとどうしても複雑な屈折を余儀なくされるあたり、性差とはむずかしいものなのだな、と思ったりする。

石田衣良『約束』

 石田衣良の短編集。表題作は、ぼくが読むたびに泣けてきてしかたない作品である。もし、いちばん泣ける小説はどれですか、と訊かれることがあったらこのタイトルを挙げるかもしれない。理不尽な殺人事件にあった子供が、「ぼくが死ぬべきだった」と口にするあたりがとにかく泣けてしかたない。そのほかの収録策もほのあかるい希望を感じさせる逸品ぞろいです。

江戸川乱歩『芋虫』

 江戸川乱歩の「芋虫」といえば、だれでもそのヴィジュアルが思い浮かぶ短編の傑作だろう。戦争で四肢を失い、しゃべることすらできなくなった人物を、あたりまえの反戦思想などまったくなく、ただ「芋虫」と称する感覚は、現代においてなお衝撃的である。とてつもなく乱歩らしい、イデオロギーに汚染されていない純粋なる人間地獄の描画がここにある。

乙一『失はれる物語』

 乙一がその峻烈なる才能をもっともヴィヴィッドに発揮していた頃の作品集。ぼくにとって「しあわせは子猫のかたち」は、いままで読んだすべての短編のなかでも五指に入るであろう出色の一作だ。いったい何をどうやったらこんなお話を書けるのかと思うほどの鮮烈で繊細な文学世界がくりひろげられる。今後も文学史に永遠にのこるべき作品たちといって良いだろう。

金城一紀『GO』

 「差別」をテーマにしているというと、いかにも説教くさい作品が思い浮かぶところかもしれないが、金城一紀はそれを一匹の獰猛なライオンのラブストーリーとして描いてのけた。「在日」といまなお呼ばれる人たちが、その実、この日本のなかでどのように暮らし、鬱屈や不満を抱え込んでいるのか、その実際のところに迫るクールでホットなエンターテインメント小説。

桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』

 桜庭一樹、衝撃の出世作。こののちの桜庭一樹の文学世界のすべてがこの一作に凝縮されているといっても良いだろう。父と娘、ふたりの少女、格差、殺人事件、呪われた愛――いわゆる「ライトノベル」のフレームのなかではついに発揮し切れなかったその稀有な才能が、ここには充溢している。読めばだれでもすごさがわかるタイプの傑作なので、まずは読んでみてください。

谷崎潤一郎『春琴抄』

 日本近代文学史上、最高の美文でもって書かれた小説。さいしょからさいごまで、ひたすらにため息が出るほどに美しい。しかし、それでいて、きわめて陰惨で呪われた愛の物語である。ばかげた架空のできごとにしか過ぎないという人もいることだろうが、乱歩にもつよい影響をあたえた谷崎潤一郎の美学の結晶として、きょうにもつよい光を放つ怪異な中編だ。

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