「勝つ意欲」はたいして重要ではない。
そんなものは誰もが持ち合わせている。
重要なのは、勝つために準備する意欲である。
ボビー・ナイト(バスケットボールコーチ)
なるべくたくさん読書しようとしても、続かない。
運動を継続しようとしても、すぐ投げ出してしまう。
早めに仕事を済ませたいのに、後回しにしがちだったりする。
どうしても努力を続けられない自分にがっかりしているあなたへ、ここに「もう少しだけラクに頑張れるやりかた」があります。
その名は【セルフナッジ】。
行動科学研究があきらかにした有効な努力(エビデンスあり)
「ナッジ」を知っていますか?
ご存知という方は経済学についての知識がおありなのかもしれません。
ナッジとは、英語で「行動を後押しすること」を意味する言葉。
とくに行動経済学の領域では「行動を強制するのではなく自然に行動変容を後押しする手法」を意味するナッジ理論が知られています。
オウェイン・サービスとローリー・ギャラガーの『根性論や意志力に頼らない 行動科学が教える目標達成のルール』は、そのナッジ理論を背景に、自分自身の行動を後押しする「セルフナッジ」について解説した一冊。
まさにぼくのような「努力しようとしてもまるで続かない」、「挑戦を投げ出すことにだけは自信がある」人間にはピッタリの一冊といえるでしょう。
いや、ほんと、三日坊主どころか一日で投げ出したりしますからね、わたくし。
もしテレビゲームのようにステータスが数字になって見えていたら、「根性」や「精神力」の項目がマイナスになっているかもしれません。
しかし、行動科学においては人がポジティヴな行動を続けられたり、あるいはネガティヴな行動をやめられなかったりすることは、単にその人の精神力だけで決まってくるのではなく、環境からの働きかけが関係しているものと考えます。
その上でなるべく良い行動を取りやすい環境を整えようとするのがナッジの本質であり、セルフナッジとは自分で自分のまわりの環境を整備することを意味します。
あるいは、こう書いてもピンと来ないかもしれません。
ですが、人間の活動の成否がその周囲の環境や行動のやりかたそのものに大きく依存していることは、すでに膨大な科学的エビデンスが積み上がれている客観的事実なのです。
たとえば「毎日、早朝に起きる」という目標を立てたとしましょう。この目標を、純粋な意識の力だけで達成しようとするのと、めざまし時計を設定して起きようとするのでは成功率が変わってくることは当然です。
ぼくたちはどうしても自分自身の意志力の有無であらゆるアクションの成功、不成功が決定してしまうものと考えがちですが、じっさいには「なるべく意思や決断の力を使わずに済むようなしくみを作っておく」ことが目標達成のためにはきわめて重要なのです。
そして、この本にはまさにそのような「しくみ作り」に役立つ行動科学の知見が大量のエビデンスとともに記されています。
【セルフナッジ】21個の黄金のルール
全編は全七章に分けられ、それぞれ三つずつ、つまり合計21個の「ルール」が記されています。以下に、すべてのルールを記してみましょう。
目標設定
[ルール1]適切な目標を選択する
[ルール2]目標はひとつに絞り、明確な到達点と達成期限を設定する
[ルール3]目標を自分で管理できるステップに分解する
プランニング
[ルール1]シンプルなプランにする
[ルール2]実行可能なプランを立てる
[ルール3]プランを習慣化する
コミットメント
[ルール1]コミットメントを決める
[ルール2]コミットメントを書き出し、公にする
[ルール3]コミットメントレフリーを任命する
報酬
[ルール1]重要なものを報酬にする
[ルール2]小さい報酬で良い習慣をつける
[ルール3]逆効果に注意する
共有
[ルール1]協力を仰ぐ
[ルール2]社会的ネットワークを活用する
[ルール3]グループパワーを使う
フィードバック
[ルール1]目標までの自分の立ち位置を知る
[ルール2]タイムリーで具体的、すぐに対応可能で、本人の努力に注目したものにする
[ルール3]自分のパフォーマンスを人と比較する
あきらめない
[ルール1]練習の質と量を高める
[ルール2]試しながら学ぶ
[ルール3]振りかえりをして自分の成功を祝う
これだけでは何のことやらわからないかもしれませんが、本編にはすべてのルールについて、ていねいに詳細が記されています。
また、具体例として「子どもたちと過ごす時間を増やす」場合や、「健康な体をつくる」場合の例が記されてもいます。
あなたが掲げる目標が何であれ、参考になることはまちがいないでしょう。
少なくとも、こういったセルフナッジの放送にのっとっているほうが、それを無視して根性だけで何とかしようとするときよりもその目標が達成されやすくなることはたしかです。
ある目標を実現するためにはどうしたってある程度の意志の力が必要なことはたしかでしょう。
しかし、その力はどんな人にとっても限られたものだと認識するべきであり、むやみと浪費してはならないのです。
オバマ元大統領の例にまなぶ
一例を挙げましょう。
アメリカ史上初の黒人大統領として2期8年の任期を勤め上げたバラク・オバマ大統領は、大統領選に出馬するにあたって、喫煙の習慣を止めることを約束していました。しかし、その結果は以下の通り。
オバマ米大統領は28日、ワシントン郊外の海軍医療センターで昨年1月の就任後初めて健康診断を受け、「素晴らしく健康。残り任期を務めるのに問題なし」とのお墨付きを得た。ただ、たばこをやめる治療を続けるよう指導を受けており、大統領選で公約した「禁煙の誓い」は守れていないようだ。
結果として、かれは公約を守れなかったのです。
それでは、オバマは意思が弱い人物なのでしょうか?
もちろん、そんなはずはありません。社会的に不利な黒人の立場で大統領にまでのし上がるためには、まさに超人的ともいえる意志の力が必要だったはずです。
しかし、そのオバマであっても、大統領という職務に就きながら禁煙を続けることは容易ではなかったのです。
ここから学べるのはこのようなことでしょう。意志の力とはどこからともなく無限に湧き出てくるような性質のものではなく、それこそロールプレイングゲームの「マジックポイント」のように有限な資源だということ。
オバマ元大統領ほど強靭な意思の力があってなお、それを大統領としての激務に使ってしまえば、禁煙をつづけるための量は残らなかったわけです。
したがって、ぼくたち凡人は、もし何か目標を達成したいと考えるのなら、なおさらその限られた力を有効に使わなければならない。そのための具体的な方法論がセルフナッジの合計21個の黄金律だということになります。
これはどのような目標にも応用できます。たとえば、仕事で栄達したいとき、家族と仲良くしたいとき、スポーツの成績を向上させたいとき、セルフナッジはあなたを助けてくれることでしょう。
同じように努力するにしても、その「正しいやりかた」を知っているのと知らないのとでは苦労が段違いなのです。
どうです、興味が湧いてきましたか?
ぼくはいま、この理論をもちいていろいろなことにチャレンジしているところです。あなたもぜひ、セルフナッジで生活環境を変えてみましょう!
人生をより良くするために変えるべきなのは自分ではなく、環境のほうだったのです。