先日、羽海野チカの傑作マンガ『3月のライオン』最新刊となる第17巻が発売されました。
あとがきによると、連載も「ラストスパート」とのことで、内容的にもいっそう充実しています。
というか、もう紙面の情報量が凄いことになっていて、歴史ものとかダークファンタジーみたいなジャンルではないのに、一読しただけでは汲み取り切れないほどのインフォメーションがあふれています。凄いですね。
今回は前巻で描写された二階堂戦の後半。ライバルである二階堂の視点から主人公・零くんの凄みが描き出されるあたりが特色で、いつのまにか一流棋士の領域に到達してしまったかれの力量が丹念に描写されています。
というか、零くん、強くなったのね。で、勝負はかれの勝利で幕をとじるわけですが、その決着を経て、いよいよ次巻では島田さんとの再戦がくりひろげられるのでしょう。
この巻の終わりではゾクリとするようなひと言を漏らしていて、「こ、こわっ」と思わせられます。
将棋にすべてを費やし、将棋以外のすべてを捨て去ってきた男に対し、われらが主人公はいかにして立ち向かうのでしょうか?
終盤のここに来て負けるということはないと思うので、おそらく勝つのだろうけれど、並大抵では勝てないよなあと思わせられるのも、物語がここに至るまで積み上げてきたものがあるからに他なりません。
また、ここで勝ったからといってすぐさま名人位を獲れたり、あるいはA級に上がれるわけでもないので、そこが全編のクライマックスになることはないでしょう。
いったいこの先、どのような終盤が待ち受けているのか、宗谷名人との再戦はあるのか。予断を許さないものがあります。
恋愛的にはほぼ決着がついているから、後は将棋で何らかの決着がつくところで終わりなのかなあ。
物語序盤においては生きるために必要なものを将棋のほか何ひとつ持っておらず、まさに「零(ゼロ)」だった少年は、一歩、また一歩と歩みを進めて、いまやすべてを手に入れようとしています。
はたしてかれの成長の果てには何が待ち受けているのでしょうか。楽しみでなりません。
『3月のライオン』は、大ヒット作であった恋愛マンガの『ハチミツとクローバー』に続けて、羽海野チカが挑んだ新境地でした。
いまとなってはこのマンガの存在は『ヤングアニマル』にしっくりとなじみ、まさになくてはならないものに感じられますが、連載当初は「あの羽海野チカが『ヤングアニマル』に!?」と多くの人を驚かせたものです。
真の才能の持ち主は、過去の栄光を追いかけることなく、自分の境地を刷新することを躊躇しない。そんなことをいつも感じます。
『ジョジョ』で毎回、新しい挑戦を続ける荒木飛呂彦さんや、『ファイブスター物語』でまったく異なるデザインを発表しつづける永野護さんなどもそうですが、「いったんできたこと」をくり返さず、「成功したパターン」をなぞろうとしないのですね。
凡人にとってはその挑戦の姿勢は恐ろしく危なっかしくすら感じられますが、じっさい、『3月のライオン』はそれで『ハチミツとクローバー』以上の熱い支持を集めている。凄いとしかいいようがありません。
『ヤングアニマル』ではすでにこの第17巻のさらなる続きが描かれています。物語の比較的序盤、第3巻のあたりで零くんをあっさり撃破した島田さんにふたたび挑むことは零くんがその間にどのくらい成長したのかを直接的に表わすことになるでしょう。
そうかといって、連載をずっと追っている読者なら知っている通り、タイトル獲得に執念を燃やす島田さんにもかれなりの負けられない理由がある。いずれが勝ち、いずれが敗れるにしても、白熱した好勝負が見られそうです。
それにしても、島田さん、恋愛とか結婚はどうするのでしょうか。将棋以外のものを抱えることはできないという考えかたもあるだろうけれど、あかりさんにその病んだ胃に沁みるような料理を作ってもらうほうが勝率も上がったりするのでは?と思ってしまいます。
ふつうに考えたら色々ありつつもあかりさんと結ばれる結末が待っているはずなのだけれど、羽海野チカだからなあ、ひょっとしたら最後まで結ばれずに終わったりするかもしれない。
『ハチミツとクローバー』でも「運命的なあいてと結ばれるとはかぎらない」という展開が泣かせましたからね。
さて、どのような勝負が展開するものなのか。目が離せません。
いつのまにか圧倒的「リア充」になってしまった零くんが勝ったとして、それで良いのかという気もしてしまうわけですが、現実には手に入れる人間はすべてを手に入れ、手に入れられない者は何ひとつ手に入れられない、ということも良くあるわけですからね。
ここら辺はなかなかひと筋縄ではいかないあたりです。
『ヤングアニマル』で一話一話連載を追いつつ、来たる第18巻を楽しみにしたいと思います。
「ラストスパート」の感想でした! でわ。
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