10分でわかる『ファイブスター物語』。

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壮大を究める「お伽噺」。

 『ファイブスター物語(ストーリーズ)』は永野護が1986年から『月刊ニュータイプ』に連載しているマンガ作品である。

 が、しかし、ただ「マンガ」といって済ませるにはその内容は複雑を究め、何冊もの設定資料集を読まなくては把握し切れない部分も多いという異端、異形の作品でもある。

 おそらく日本で連載されているすべての漫画のなかでももっとも膨大な背景設定を持っているシロモノだろう。あるいは世界的にも類例がないかもしれない。

 ひとことでいって、とにかくややこしい話なので、いきなり第一巻から読み始めても、とっつきにくいかもしれない。

 そこで、この記事では「10分でわかる『ファイブスター物語』」と題し、その物語の全貌を簡単に解説することにした。

 例によって無謀な企画なのだが、本編既読の方も未読の方もぜひご笑覧いただきたい。

ジョーカー太陽星団の光の神。

 『ファイブスター物語』の舞台は遥かな別宇宙に存在する夢幻の大地「ジョーカー太陽星団」。

 四つの太陽系と五つの有人惑星から構成され、現代地球を大きく上回る科学力を有するこの世界で、まさに壮大無比な物語が繰りひろげられる。

 全編を通しての主人公は天照帝(アマテラスノミカド)。

 星団有数の超大国A.K.D.を支配する「光皇」であり、数々の超常能力を使いこなす美貌の君主だ。

 で、これはネタバレではないのでいってしまうが、この人の正体、じつは神さまである。光の神。

 うん、「どういうこと?」などと訊いてもらっても困る。

 とにかくこの宇宙(ジョーカー宇宙と呼ばれている)を生み出した高次元の神さまがなぜか地上に降り立って皇帝をやっていると思ってもらうしかない。

 それがなぜなのかはほんとうにわからない。何しろ神さまのやることなので、人間に理解できる理由などないのだろう。ただのお遊びなのかもしれない。

 そして、天照は神さまなので、この宇宙のあらゆることに干渉できる。

 時間を止めたり、星を動かしたり、死んだ人間を生き返らせることだって可能だ。しかし、かれはジョーカー星団のバランスを考え、その力を封印している。

 この天照が、ひとりの君主として、太陽星団征服に乗り出し、さまざまなドラマが生まれていくのが、『ファイブスター物語』の基本的なプロットである。

 もっとも、連載30年以上を経て、まだ物語はそこまで達していない。この物語、恐ろしく気の長い話なのだ。

「年表」という名の背景設定。

 それではなぜ、物語がそこまで達していないにもかかわらず先の展開がわかってしまうのか?

 それは、物語の全貌が「年表」という形で先に提示されているからだ。はい、ここテストに出るよ。

 そう、『ファイブスター物語』の最初から最後までのすべての出来事は、単行本巻末に掲載されている年表に掲載されているのである。

 星団暦3159年に天照の征服戦争が始まることも、3960年にそれが完結することも、4100年にA.K.D.が崩壊することも、何もかもがそこには記載されている。

 じつは第一巻のファーストエピソードは、天照の征服戦争がすべて終わりを見た、物語終結の時点から語られている。

 この作品はすべてが終わり、戦争と栄光の時代が完結したその時点から過去を振り返っているわけである。

 この破格の構成は、まさに『ファイブスター物語』しか成し遂げられない圧倒的な独創性(オリジナリティ)といえるだろう。

 ただ、そんなふうにすべての出来事が初めから開陳されているのなら意外性のある展開は望めないのではないかと思う人もいるかもしれない。

 ところが、そうではないのだ。年表にはたしかに星団で起こる大きな事件はほとんど載っているが、それはあくまで歴史に残るようなビッグイベントだけである。

 星団で生き、嘆き、歓び、苦しみ、そしてときには虫けらのように無残に死んでいく人々のミクロなストーリーはそこには記されていない。

 したがって、年表に書かれている数々の事件の裏で、いったい何が起こっていたのか、そしてまた歴史に名前が記された英雄たち以外の人々はどのように暮らしていたのか、まさに歴史小説を読むような面白さがそこにはある。

騎士、ファティマ、モーターヘッド。

 数千前に頂点を迎えた科学文明がゆっくりと衰退してゆくなか、しばしば壮絶な戦争が繰りひろげられているジョーカー太陽星団において、その最強の兵器となっているのが巨大人型ロボット「モーターヘッド」である。

 物語中にはいくつものあるいは美しい、あるいは強そうなモーターヘッドが登場するが、このロボットはふつうの人間には動かせない。

 巨大なモーターヘッドを駆動し、戦うことができるのは、騎士(ヘッドライナー)と呼ばれる超人たちだけである。

 この騎士は星団の人々のなかに数十万人にひとりの割合で生まれる、かつての超文明の血を継ぐ人々である。

 かれらはふつうの人間を遥かに上回る超絶的な身体能力を持ち、それぞれの国の騎士団に属して人々の尊敬を集める。

 そして、この騎士たちのパートナーとなるのが、ときに「妖精」とも呼ばれる人工生命体ファティマだ。

 かぎりなくみめ麗しい美少女の姿をしたファティマたちは、騎士に仕えてモーターヘッドを操る人型コンピューターである。

 ほとんどの場合、この騎士たち、ファティマたちが、物語の主人公だといえる。その異様な美しさ、また「かっこよさ」はほかにまったく類を見ない。

 この騎士たちのかっこよさ、ファティマたちの美しさ、モーターヘッドの壮麗さは、このマンガの最大の読みどころであるだろう。

 天照もまたひとりの騎士であり、妻であるファティマ・ラキシスとともに、最強のモーターヘッド「ナイト・オブ・ゴールド」をコントロールする。

無数の魅力的なキャラクターたち。

 神である天照と女神であるラキシスを初め、この物語には膨大な数の人物が登場する。

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  • 作者:永野 護
  • 発売日: 2019/02/09
  • メディア: 大型本

 ラキシスを初めとする45人の「バランシェ・ファティマ」を生み出したことで知られる天才科学者ドクター・バランシェ。

 ラキシスの姉アトロポス。妹のクロ―ソー。「剣聖」の異名を取る星団最強騎士ダグラス・カイエン。

 若くしてフィルモア大帝国の皇帝となったエラニユース・ダイ・グ・フィルモア・ファイブ。天照の支配から星団を解放する運命を背負ったコーラス・シックス。

 その他にもおそらく数百名には登るであろう人物が出て来て運命のドラマを展開するのだ。

 そこには「善」と「悪」というわかりやすい陣営はない。

 そもそも主人公の天照にしてからが星団を恐怖のどん底にたたき落とす大征服戦争を巻き起こすことになる人物である。決して善人とはいい切れない(そもそも神さまに善良さを期待するほうが間違えているのかもしれない)。

 また、この作品はふつうの少年マンガのようにしだいにスケールがアップし、「強さ」が「インフレ」してゆくという構造にはなっていない。

 たしかに次々と「最強」は塗り替わっていくのだが、そもそもほんとうに最強なのは神である天照である(もっとも、その天照も高次元の全能神の地上における顕現であるに過ぎないのだが)。

 そして最強といわれる騎士でも状況によってはあっさり死ぬこともあるし、ふつうのいち兵士たちにもそれぞれのドラマが用意されている。

 ただ「強さ」がすべてという世界ではないのだ。

史上最大のサプライズ、設定一新の「ちゃぶ台返し」。

 膨大な数の騎士たち、ファティマたち、一般人、そして神々や悪魔たちまでが、物語のなかでさまざまな神話的、あるいは現世的ドラマを展開する。それが『ファイブスター物語』だ。

 その展開はいくつもの壮絶なサプライズに満ちているのだが、そのなかでもじつに最大のものといえるのが、単行本第13巻における「ちゃぶ台返し」である。

ファイブスター物語 (13) (100%コミックス)

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  • 作者:永野 護
  • 発売日: 2015/08/08
  • メディア: コミック

 この第13巻に至って、『ファイブスター物語』のそれまでのすべての設定はひっくり返された。まったく何の説明もなく、「モーターヘッド」は「ゴティックメード」と呼ばれる新しいロボットへ移り変わってしまったのだ。

 物語の進行はそのまま、あたかも物語の舞台となるジョーカー太陽星団そのものがなぜかよく似たパラレルワールドにすり変わってしまったように、ロボットを初めとする基本設定が更新されたのだった。

 この設定変更は当然ながら凄まじい反響を巻き起こした。賛否両論、数しれぬ意見が飛び交い、その結論は未だ出ていない。

 ただ、ぼく個人は長い連載が続くなかで惰性に堕する作品が多いなか、あくまでも「挑戦」を忘れず、そのためには過去の栄光のすべてを一顧だにせず捨て去る永野護の天才をリスペクトするものである。

 破格といっていい天才的な才能のもち主であっても、その大半は長い時のなかで衰え、失われていくのがふつうというものだ。

 だが、永野は事ここに至ってなお、自分の才能を研ぎつづけることをやめようとしない。そのために多数の読者の反感を買おうとも。

 この、ロック・スピリットと呼びたいような反骨の精神にぼくはつよく惹きつけられる。こうでなくっちゃ、と思うのである。

 『ファイブスター物語』はある意味では子供じみた「中二病」の夢がすべて詰まった物語である。

 一面的にはきわめてオタク的でもありながらそのあまりのスタイリッシュさのために異端となる、この作品はかぎりなくオリジナルだ。

 ぜひ、あなたもジョーカー太陽星団を訪れてみてほしい。全世界最高の無二の物語がそこにある。

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