「少女漫画」は「女性の恋愛」を支配するのでしょうか? いくつかの記事を元に考えてみましょう。
- 『カレカノ』、『フルバ』は「有罪」か?
- 女神なんてなれないまま、わたしは生きる。
- 女性の恋愛とモラルハラスメント。
- ドS男子に媚びる恋愛。
- 「真実の愛」という幻想。
- お仕事のお願い
- 電子書籍の宣伝
- おまけ
『カレカノ』、『フルバ』は「有罪」か?
まず、少し昔の内容になりますが「『彼氏彼女の事情』『フルーツバスケット』がアラサー女子の恋愛観にもたらした闇」という記事を引用したいと思います。
タイトルの通り、少女漫画往年の名作『彼氏彼女の事情』と『フルーツバスケット』を扱った記事です。この記事によると、両作品には以下のような共通点があるとされています。
・女子(主人公)が努力家、優等生、いい子
・男子(恋の相手)が特別な存在(人気者、特殊能力あり)
・でも男子は「過去のトラウマ」を抱え、心の闇を持っている
・男子、トラウマが爆発した時、女子を傷つけて避ける
・女子、そんな男子を偉大なる母性で受け入れる
・男子、トラウマが癒されて、女子に愛を誓う
そして、この記事では「 すっごく雑にまとめると、この作品たちは「努力家の女の子が、圧倒的な包容力をもって、トラウマや影のある特別な男を癒して女神になる」話です」とされています。
雑すぎる気もしますが、とりあえず先へ行きましょう。興味深いことに、そういう透や雪野にシンクロする女性がたくさんいるのだそうです。
彼女たちが雪野と透にシンクロする根本的な理由は「恋愛で傷ついている」から。
モラハラ男の彼女たちは自分をないがしろにして尊厳を貶める発言に苦しみ、セフレ・セカンドポジションにいる子たちは、自分以外の女にも手を出して自分が一番になれないことに苦しんでいる。
しかし、雪野と透の場合、「恋愛相手に深刻なトラウマがあるため、彼女に心を開かずに傷つけている」という原因が提示されています。
そうするとつらい恋愛に悩む子たちは「相手が自分を傷つけているのは、相手もまたトラウマや過去に苦しんでいるからだ」というストーリーを見いだします。
「彼、親に愛されなくてとてもさびしかったんだって。だから1人と関係を築くのが怖いって言ってた」
「彼の家は、とても貧乏で苦しかったらしいのね。で、彼も周りに差別されていて、だから自分は勉強して出世して成り上がってやる、て気持ちが強かったらしい。だから、他人に優しくすることが難しいんだと思う」
「彼は昔、ものすごく好きだった彼女に浮気されて、自分の部屋で彼女が他の男としているところを見てしまったんだって。それ以来、女というものがまったく信用できなくなって、彼女を作れなくなったって言ってた」
このような話はほんとーーーーによく聞きます。相手の発言や生い立ちからトラウマらしい理由を探し出して女サイドがクリエイティビティを発揮してトラウマ創造する場合もあれば、彼サイドから「俺、こういうトラウマがあるんだ」と開示される場合もあります。
なるほど、と思います。たしかにありそうな話です。というか、あるでしょう。もちろん、すべてを漫画のせいにできるはずはないにせよ、名作漫画に自分を投影する女性はある程度いるものと思われます。じっさいよく聞く話だからです。
ちなみに、少年漫画に影響されてスポーツを始めたりする人もいるわけですが、それは今回は関係ないので措いておきます。
実は上記のようなパターンの「トラウマ男子と明るい少女の物語」は少女漫画ではほかにもたくさんあります。コメント欄で触れられている『ぼくの地球を守って』もそうだし、『CHIPHER』なんかもそうですね。
これは少女漫画ではありませんが、テレビゲームの『空の軌跡』もドンピシャでこのパターンです。すぐには思い出せませんが、まだまだたくさんあるはず。
あと、陽性の少年がトラウマ少年を癒やすというパターンもあります。『BANANA FISH』とか『八雲立つ』とか。これはそのままBLへ向かう流れですね。
しかし、どういうわけか傷ついた少女を陽性の少年が癒やすというストーリーはあまり見かけない気がします。いや、あるには違いありませんが、相対的に少ないように思えます。
この非対称性は何なのか? ぼくの観測範囲に入って来ないだけなのか、何かほかの理由があるのか。気になるところではありますが、よくわからないので放置することにします。
たぶん、同性にトラウマを背負わせるのは重すぎるからだと思うのだけれど。その証拠に、男性向けではトラウマ少女ものは山ほどある。
女神なんてなれないまま、わたしは生きる。
さて、そういうわけで、上記されているパターンは少女漫画では腐るほど見かけるものであるわけです。で、そのことを踏まえた上でいうと、この記事の論旨にはいくつか疑問がある。
先ほどもいいましたが『彼氏彼女の事情』と『フルーツバスケット』を「努力家の女の子が、圧倒的な包容力をもって、トラウマや影のある特別な男を癒して女神になる」とまとめるのは、さすがに無理があるだろう、というのがひとつ。
まず、透はまだしも、雪野が有馬を「偉大なる母性で受け入れ」たかというと――いや、それはないだろう、と思ってしまいます。
彼女は有馬のトラウマ発動時期にはあまり関わっておらず、ぼくの印象だと「ほとんど何もしていないんじゃね?」という気すらします(有馬に避けられていたからですが)。
また、透にしても、夾に対し「母性」を発動して「女神」になったかというと、「いや、なっていないんじゃね?」と思えます。透はたしかに非常に寛容で慈愛あふれる少女ではありますが、それでもやっぱり「女神」だとは思えない。
そしてまた、『フルバ』を読んでいた人はわかると思いますが、トラウマを癒やすために透に母性を求めていたのは夾よりもむしろ由希のほうであって、だからこそかれは透と恋愛関係にならなかったのではないかと思えます。細かいポイントではありますが。
そしてもうひとつ、こちらのほうが重要なのですが、有馬にしろ夾にしろ、「女子を傷つけて避け」たことは事実だけれど、逆にいえば「避けただけ」であって、直接に彼女たちに暴力的な言動や行動をふるったわけではない。
ここは超重要なポイントです。かれらはきょうび流行りのドS男子でもなければ、モラハラ男子でもないのです。
雪野や透が有馬や夾に惹かれるのは、いつもかれらが「優しさ」を示したシーンであって、かれらのトラウマそのものに惹かれたわけではありません。
そういう意味では『カレカノ』にしろ『フルバ』にしろ、いたって健全な恋愛を描いた漫画なのです。『カレカノ』とか『フルバ』のせいで恋愛ができなくなった人がいるとしたら、この漫画から何を読み取ったのだろうと不思議になります。
女性の恋愛とモラルハラスメント。
それでは、不健全な恋愛とはどういうものか。それは関係のなかにモラルハラスメントによる「支配-被支配」が絡む恋愛です。ここでもうひとつの記事を参照しましょう。
一体いつから日本映画にはこんなに「ドSな彼に胸キュンストーリー」がはびこるようになったんだろう?
その記憶は定かではないけれど、私はここ数年の間だけでも「好きになった彼は超イジワル男子でした」みたいな予告編ナレーションを聞くたびに「こんなん前もなかったっけ?」とデジャブっているので、私の中で「ドSな彼に胸キュンストーリーな映画」は「周期的にやってくる刺客」のように思える。
なぜ「刺客」なのかと言ってしまうと、私はこういう話が好きじゃないからです。
(参照)
女の子が「どんな相手をかっこいいと感じて好きになるか」の由来は一つではないと思います。
それは、親からの愛情の受け方、家庭環境、過去の経験、周囲の人間関係、流行や時代の空気など、様々な要素が関係して徐々に「自分の好きなタイプ」というのがぼんやりと見えてくるものだと思うからです。
だから私も極論で「Mちゃんが乱暴な彼氏を好きなのは、ドSな彼氏に胸キュンもの漫画育ちのせいだ!」とは言いません。
でも、大人になるにつれ私には「まったくの無関係ではないだろうな…」と思う機会がたびたびあったんです。
なぜなら、その後の人生で女友達からの「彼氏が強引で」「束縛ひどくて」「殴られて」「冷たくて」という類の相談が時々あったのですが、そういう「人間的にどうなの?」という彼氏を持つ女の子に聞き取った結果、ほぼ全員が「そういう系のティーン向け少女漫画」が好きだったんです。(6人中5人)
たまたまかもしれませんし、もちろん彼女達だって色々な要因から好きなタイプが形成されているとは思うのですが、それにしても人数が増えるたび私は「この確率は…」と思うようになりました。
そうなのです。最近、「ドS男子」が相手役の漫画がやたら増えたという気がします。それらはたびたび映画化されています。
ぼくはそれらの漫画を好きじゃないのであまり読んでいません。だから、直接に批判することはできないのだけれど、それらの漫画のキャラクターが『フルバ』や『カレカノ』とは決定的に違うということはいえます。
主人公の女の子に対し、直接暴言を吐いたり、暴力的な行動を取ることです。これらの漫画がどう問題なのかは上記リンクの記事を読んでもらいたいのですが、いやー、こういう漫画を読んで行動パターンを学習してしまうのはとてもまずいですよね。
そんな女いないって? いやいや、「ドS男子」でGoogle検索してみましょう。女性に対し「ドS男子に受ける行動」を推薦している記事がいくらでも見つかりますから。マジでマジで。
ドS男子に媚びる恋愛。
たとえば「ドS男子は実は理想の王子様!ドS男子との恋愛に女性が期待しているコト」という記事はこんなふう。
女性が彼氏の対象にしているか、それともただの友だちとして接しているのか、女性の態度ですぐにわかります。それはおしゃべりに現れています。
友だち止まりとして見ている場合は、とかく女性がリードして接しています。会話の流れも女性の投げかけからはじまり、女性が頃合いも図って締める。そう、相手はそのペースに合わせるしかないというスタンスだと完全にお・と・も・だ・ち。
ところが、彼氏対象にしている場合はとたんに口数が少なくなります。だからやっかいなんですよね、読めない女心です。どうしてほしいのか言ってくれればいいのにとか、何が不満なのかわからないという男子が多いと思いますが、何も困る必要はありません。
女性の口数が少なく何も言わないのは、既にドSの貴方にハマっているからです。
「貴方にお任せします」というサインで、「私を好きにして」という本音です。だから、何事にも「俺についてこい!」と口に出さずに行動でドSに振舞えばいいのです。
では、どんなドS行動で女性は無口になるのでしょうか?それは、やっぱり「力」の差を実感したときです。女性は自分でわがままを言っているとわかっていても、相手に聞き入れてほしいという気持ちが強いので、上手く言葉で言いくるめようとします。
そんなとき、男性に両手の腕を掴まれて「わがままだな!」って言われたら、体が身動きできないので心まで動かなくなります。そして無言に・・・。この無言は「わかりました」と断念した証です。そして、男性の力の前には何も及ばないという快感が刺激となり、どんどんドS男子に引き込まれていきます。
……いやー、そりゃ調子に乗った男も増えるわ、というような内容ですが、もっとひどい記事もあるので、検索してみてください。
たとえば、ドS男子にモテるために「M」になれ、と勧めているような記事ですね。
「男を立てろ」とか「できる女であることを隠せ」とか、ほんとに書いてあるんですよ。いつの時代の女だよ!
まあ、そういうことをやればモテるかもしれないけれどさあ。ろくでもないモラハラ男子ばっかりひっかかって、辛い恋愛をすることになると思いますよ。いや、ほんと、いやだなあ。
こういうことを学習した女性が女性に対する「ディス」を教えられた恋愛工学生にひっかかったりするんだろうなあ。やれやれだぜ。
「真実の愛」という幻想。
ここには、女性を辛い恋に向かわせる「真実の愛」幻想があります。この幻想に関しては、藤本由香里の『快楽電流』がくわしいので、引用しましょう。
(前略)そして、この一見どこまでも事態を前向きにとらえ、痛みを呑み込み、自分のなかで昇華してしまおうとする心性こそが、これまで少女マンガのなかでも幾度もくりかえされ、甘美な夢と自己陶酔と共に刷り込まれてきた、自己犠牲を超えて輝く〈真実の愛〉願望であった。
いったいこのファンタジーがいかに強固で、そしてまた、生身の女にとって有害なものであるかおわかりになるだろうか。この心性のために、〈愛〉は女に、あらゆることを可能にさせる。男のためにどんな自己犠牲にも嬉々として応じ、弄ばれていてすら「気持ちが通じないのは、まだ私の努力が足りないんだわ」と考える。つまり、〈愛〉の幻想が彼女に、本来耐えるべきことでないことまで耐えさせてしまうのである。〈愛〉という名の、なんという巧妙な罠!
それにかてて加えて最近では、“大人の女”の自己抑制の美学、というのまで加わった。曰く、“大人の女”は感情を制御できる。曰く、“大人の女”は嫉妬を表に現わさない。曰く、“大人の女“の恋愛はフィフティ・フィフティなのだから、男に泣きごとを言ったり、恨みごとを言ったりしない……。
これがいかに男にとって都合のいい美学かはおわかりになるだろう。これこそが、向上心にとんだ、頭のいい、現代的な(そしてどこか古風な)女性に仕掛けられた罠なのである。
少女マンガは女性に「真実の愛」を教育し、しばしば女性はそれに支配されてしまう。そういう構造はどうやらありそうです。
ぼく的には『フルバ』や『カレカノ』は無罪だと思いますが、女性読者に「有害」ともいえる影響をあたえる少女マンガは枚挙に暇がないでしょう。
それが一概に悪いとはいえませんが、フィクションはフィクションとして割り切って楽しむことが必要であるように思えます。
どうせなら自分自身を大切にする恋愛をしよう! それが、しあわせへの第一歩です。こうしてみると、なろう小説の悪役令嬢ものとかはだいぶ健全かも。これも時代ですね。
お仕事のお願い
この記事をお読みいただきありがとうございます。
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また、現在、記事を書くことができる媒体を求めています。
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簡易なポートフォリオも作ってみました。こちらも参考になさっていただければ。
電子書籍の宣伝
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