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短くて完結していて面白いマンガ×たくさん。

 「10巻以内で完結してておもしろいマンガ教えてくれ(「VIPPERな俺」)を参考に、全10巻以内で完結している漫画を列挙してみる(文庫カウントも含む)。

 『バオー来訪者』★★★とか、『羊のうた』★★★★とか、『げんしけん』★★★☆とか、『プラネテス』★★★★とか、そこらへんの定番は既に向こうで挙がっているので、出ていない作品だけ。

 まずは少女漫画から。

・『ポーの一族』★★★★★

 文庫全3巻。吸血鬼ものの最高傑作。この作品に比べれば、アン・ライスの『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』も凡作に見えてくる。

・『日出処の天子』★★★★★

 文庫全7巻。後世、聖徳太子と呼ばれることになる魔性の青年の物語。紙背を通して、彼岸が見えます。

・『ベルサイユのばら』★★★★

 文庫全5巻。フランス革命にオスカルという架空の人物をぶち込み、すべてがカタストロフィに至るプロセスを描ききった永遠の名作。いや、おもしろいよ。

・『月の子』★★★★☆

 文庫全8巻。数百年ぶりに地球にやって来た人魚たちと、チェルノブイリ原発の物語。ぼくが知っているすべてのハッピーエンドのなかで、この結末が最も美しく、最も残酷。

 ここらへんの少女漫画の古典的名作どころは軒並み10巻以内ですね。
文庫だと、『風と木の詩』も、『地球へ…』も、『CHIPHER』も、『銀のロマンティック…わはは』も全部、10巻以内。

・『風と木の詩』★★★★

 文庫全8巻。いわずと知れたボーイズ・ラブ漫画の嚆矢だが、それ以上の作品。圧巻は構成力。二人の主人公の親の世代にまでさかのぼって宿命の物語を綴っていく。

・『地球へ…』★★★☆

 全3巻。はるかな未来、争いあいながらも地球をめざすミュウと人類の抗争史。いまなお色あせないおもしろさを保ち、最近、ふたたびアニメ化された。

・『CHIPHER』★★★★

 文庫全7巻。成田美名子の代表作。見分けがつかないほどよく似た双子の兄弟が、傷つけあいながらもやがて和解に至る。

・『銀のロマンティック…わはは』★★★★☆

 中篇。川原泉が最も天才的だった頃の代表作のひとつ。一応、フィギュアスケート漫画なのだが――あの結末はちょっとぼくには形容しようがありません。
川原泉なんて文庫で2冊以上の作品はほとんどない。萩尾望都にも文庫で全10巻を超える作品はありませんね。

 少年漫画とか青年漫画しか読んだことがない向きは、萩尾の「半神」や「エッグ・スタンド」や『銀の三角』を読んで打ちのめされるといいよ。

・『半神』★★★★☆

 短篇。わずか16ページに半神とひき裂かれた少女の魂の慟哭をこめた奇跡の傑作! 日本短篇漫画史上の最高傑作のひとつといっても、異論は多くないと思う。

・「エッグ・スタンド」★★★★

 中篇。萩尾の中短篇のなかでは決して有名な作品ではないかもしれないが、最も好きなもののひとつ。愛と死の寓話。

・『銀の三角』★★★★

 全1巻。よしながふみが、「何度読んでもよくわからない」と語っていた、難解な作品。たしかに何度読んでもよくわからないが、とにかく凄いことだけは一度でわかる。
しかしこの星の数は何なんでしょうか。ひいきでしょうか。でも、仕方ないじゃん、萩尾望都なんだから。

 まあ、とにかく、日本人に生まれてきたからには、「半神」くらいは読んでおいたほうがいいと思う。「小説も漫画も含めて、20世紀最高の天才」(森博嗣)の本領がたった16ページでわかります。

 あと、同じ少女漫画でも、高河ゆんやCLAMPはまた別枠になりそう。

・『アーシアン』★★★★

 完結版全3巻+外伝1巻(単行本では未完)。高河ゆんの初期代表作。同性愛志向によって滅亡しようとしている天使たちと、かれらに管理される地球人(アーシアン)。

・『東京BABYLON』★★★★

 単行本で全7巻、文庫で全5巻。初めは普通のオカルト漫画として始まるのだが、その幸福な日常はやがて衝撃的なカタストロフィに至る。いま考えると、ほんと、CLAMPらしい。

 まあ、ここらへんを押さえておけばOKかな。CLAMPはいくつか長い作品がありますが、高河ゆんには全10巻を超える作品はないようです。

 『源氏』★★★★が完結していたら10冊を超えていたかもしれないけれど、途中で放り出されたままだからなあ。

 あとまあ、ファンタジィがお好きなら、紫堂恭子のの『辺境警備』と『グラン・ローヴァ物語』も押さえておいていいかも。ほのぼのしたなかにも残酷な現実が垣間見える作品です。

・『辺境警備』★★★☆

 全7巻。ほのぼのとした田舎の村で、ひげの隊長さんと美男の神官さんの漫才が続く。そして、1000年前の神話が現代によみがえる。

・『グラン・ローヴァ物語』★★★☆

 文庫全2巻。『辺境警備』と同じ世界の数百年前の物語。ちんけな詐欺師の青年が大賢者につき従ううちに次第に成長していく――と書くと、全然作風をあらわしていない罠。

 あと、秀逸な短編が読みたい向きには、ぼくが偏愛する『マダムとミスター』がオススメ。遠藤俊子はこれがいちばん好きですね。

・『マダムとミスター』★★★☆

 はるかな英国が舞台。亡き夫の財産を受け継いだわがままマダムと、彼女のトラブルに巻き込まれる万能執事のあれやこれやを、連作短編の形式で描く。漫画ではあるけれど、外国の短編小説のような味わい。

 って、ほんとに切りがない。少女漫画はあと、『観用少女』と『ピエタ』だけ挙げておこう。

・『観用少女』★★★★

 文庫全2巻。少女幻想の極北、この世のものとも思えないほど美しく、ただ愛されることによって生きる「観用少女(プランツ・ドール)」と人間たちの交錯。
いまなら単行本未収録作品を含む愛蔵版を買うといいかも。高価だけれど、圧倒的に美しい。

・『ピエタ』★★★★

 全2巻。百合漫画といえば百合漫画だけれど、そうでないといえばそうでない、微妙な一作。圧倒的な緊張感。

 あ、少女漫画に入るかどうか微妙なところだけれど、皇なつきを忘れていた。このひとの作品はすべて全1巻以内(!)。一作挙げるとすれば、『黒猫の三角』か。

・『黒猫の三角』★★★★

 森博嗣の原作を完全に再現したミステリィ長編。原作もおもしろいけれど、勝るとも劣らない出来。Amazon画像があるのでこちらを挙げたけれど、いまはバーズコミックス版のほうが入手しやすいかも。

 さて、このように少女漫画は短い傑作が山ほどあるのですが、少年漫画の場合は、ヒットした作品は大長編化する傾向が顕著なので、あまりめぼしいものを思いつきません。

 リンク先で挙げられていないものだと、これくらいかなあ。

・『魔人』★★★

 全2巻。人知を超越した魔物たちに対して、ただ、その卓越した頭脳だけを武器に立ち向かっていく非力な少年の物語。短くまとまっていて、なかなかおもしろいです。

・『ロケットマン』★★★

 全10巻。知的サスペンス。初期は一種の推理ものだったが、次第にすべては宇宙へと収斂して行く。各話のタイトルはすべてSF作品から採られている。

・『ますらお』★★★

 単行本全8巻、文庫全5巻。はるかなる源平合戦の時代、孤独な魂を燃やして生きつづけた天才、源義経の生き様。ここでは、画像があるので単行本を挙げておきます。
打ち切り作品だけれど、『ますらお』、好きなんだよね。義経を主人公にした作品ではありますが、実は『BANANA FISH』みたいな少年のサバイバルもの。

 美女、美少女描きの印象がつよい作家ですが、この作品の義経はどんな女性よりも美しい。たしかに話が源平合戦に移ってからはいまひとつなんだけれど、それでも最終的な悲劇まで描ききれなかったことが惜しまれます。

 あと、細野不二彦の『東京探偵団』なんかも一応、少年漫画の範疇か。

・細野不二彦『東京探偵団』★★★☆

東京探偵団 (1) (MF文庫)

東京探偵団 (1) (MF文庫)

Amazon

 ゲイの美少年と、同じくゲイの怪盗が、湯水のごとく金をばら撒きながら勝負する。細野不二彦少年漫画家時代の秀作。

 まあ、掲載誌がたまたま少年誌だったというだけで、少年漫画の王道とはとてもいえない異色作ですが、おもしろいですよ。

 あ、そういえば、『巨乳ハンター』★★☆や『人類ネコ科』★★★☆も――と考えていくと、けっこういろいろあるな。諸星大二郎のジャンプ時代の作品とか。『武装錬金』★★★は全10巻だっけ?

 それから、少年漫画とはいっても、もう少しオタク寄りの作品となると、やっぱりおもしろいものがいろいろありますね。

・『精霊使い』★★★

 全4巻。話はめちゃくちゃだが、後半の絵はすさまじく綺麗。作者の健康上の理由でクライマックスをのこしたまま完結したという悲運の作品。小説版で完結したってほんとかな。

・『ワンダル・ワンダリング!』★★★☆

 外伝1巻を含めて全5巻。ほのぼのとした田舎村を舞台に、画家志望の少年と異種族の子供の日常を綴る。『辺境警備』にちょっと近いかも。この作品で迎夏生はひとつの壁を破ったと思う。

・『ロードス島戦記 −ファリスの聖女−』★★★★

 全2巻。水野良の原作を超えることはなはだしい傑作。絵に神が宿っている。日本で生み出されたヨーロッパ風ファンタジィの最高傑作かもしれない。

・『魔狼王烈風伝』★★★

魔狼王烈風伝 1 (Dengeki comics EX)

魔狼王烈風伝 1 (Dengeki comics EX)

Amazon

 全10巻。とくに傑作というわけではないが、主役の少年と少女の年の差カップルが何となく好き。こういうひと昔前の角川系の漫画は好きだなあ。いまははやらないだろうけれど。

 青年誌の作品では、『攻殻機動隊』と『AKIRA』の名前が挙がっていないことが意外。

・『攻殻機動隊』★★★★

 全1巻。続編あり。1冊で完結している漫画としては、日本で最も有名なのではないでしょうか。この世界に嵌まったらアニメも見てみることが吉。

・『AKIRA』★★★★☆

 画期的、革命的、歴史的、伝説的傑作。ひと言で説明できるような内容ではありません。読んでもらうしかない。

 あと、ジャンル的に青年漫画に含まれるかどうかわかりませんが、ぼくのバイブル『あっかんべェ一休』の名前を挙げておきましょう。

 ぼくはこの作品から膨大な影響を受けています。それこそ人生観が変わるくらい。
悟りとは? 業とは? 生きるとは何なのか? 夭折の天才漫画家が正面から描きぬいています。

 人生に悩みがあるひとは、ぜひ読んでみてください。そこらへんの自己啓発書よりためになることは保障します。

・『あっかんべぇ一休』★★★★★

 文庫全2巻。「釈迦といふ いたづらものが世にいでて おほくの人をまよはすかな」。はてしない魂の彷徨の果てに、ついには仏教の枠を飛び出すに至った破戒僧一休の生涯。

 それと、村上もとかも挙げておくか。

・『メロドラマ』★★★☆

 全2巻。ピカソやジャン・コクトー、ココ・シャネルらが闊歩した第二次世界大戦前夜のパリを舞台に、「人生はメロドラマ」と謳い上げた作品。結末は切ない。
『検事犬神(ウルフ)』全1巻★★★もなかなか。

 あと、梅図かずおとか、高橋葉介とか、よしながふみとか、『のら』★★★とか、『屈折リーベ』★★☆とか、『吸血姫美夕』★★★とか、あれとかこれとか、好きな作品はたくさんありますが、いいかげん疲れたのでやめておきましょう。気が向いたらまた書くかも。

 『イース』★★★とか、『ローンナイト』<font color=red>★★★とか、好きだったなあ。というか、いまでも好きだけれど、入手できるんでしょうか?

 結論。漫画のおもしろさは長さとは関係ない。短くてもおもしろい作品はたくさんある。もちろん、長くておもしろい作品もたくさんあるけれど。

 考えてみれば世の中には全10巻以内で終わっている漫画のほうが多いわけで、考えはじめると再現なく浮かんでくることも当然か。

 それでは、良きマンガライフを。

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