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原作は完結目前? アニメ二期は? 最新巻発売を前に『その着せ替え人形は恋をする』を語る!

◆最新巻発売間近!

 『その着せ替え人形は恋をする』の第12巻がもうすぐ発売されるようです。

 ぼくは当然のごとく雑誌連載を一話一話、舐めるようにして読んでいるのですが、それでも単行本は購入します。

 やっぱりね、単行本は別腹だからね。一気に読むとまたべつの感慨があるわけです。

 特にこのマンガは『3月のライオン』などと同じく、単行本で読んだとき映えるよう構成が計算されている印象があって、毎巻毎巻、とても楽しみです。

 で、あまりにもいまさらではありますが、「この作品の面白さのコアはどこにあるか」という話をしたいと思います。

 人によっては「そんなのあたりまえのことじゃん!」と思うかもしれないレベルの話ではありますが、どうぞご一読ください。

 さて、『その着せ替え人形は恋をする』はキャラクターの魅力といい、可愛い絵柄といい、テーマの選定といい、ほんとうに素晴らしいマンガで、先ほどいったようにぼくは雑誌でリアルタイムに追いかけるくらいハマっているのですが、それでは、この作品の「コア」はどこにあるでしょうか?

 ぼくはそれは「いま」を的確に捉えているところだと思うのですね。

 この物語の主人公は「ごじょーくん」こと五条新菜(ごじょう わかな)と「まりんちゃん」こと喜多川海夢(まりん)のふたりなのですが、五条はどちらかというと内気なクリエイタータイプで、海夢はきわめて社交的な美少女です。

 こういうふうに表現してみると既視感があるというか、ライトノベルなどではよく見られるタイプのストーリーとしかいいようがないのですが、それでいて、このマンガはひと筋縄ではいきません。

 ディープな「オタク」なのは「社交的」で「ギャル」の海夢のほうであり、彼女が手先の器用な五条にコスプレの衣装づくりを頼むところから物語は始まるのです。

◆過去の名作との異同

 とはいえ、これもまたいまとなってはありふれた展開ということができるでしょう。

 「社交的なヒロインのほうがディープなオタク」というストーリーは、名作『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』あたりに始まり、数知れない作品が生み出されてきました。

 ここにはオタクのある種の願望が見て取れる気もしますが、じっさい、オタクな女の子はいまではめずらしくもないこともたしかでしょう。

 『俺妹(おれいも)』の頃にはそういったヒロインはほぼ完全なファンタジーといって良かったように思うのですが、現在ではもうそれは、リアルとはいえないまでもまったくありえない設定とまでいえなくなってきている気がします。

 時代は変わったんですね。『その着せ替え人形は恋をする』はこの変わった時代をきわめて的確に捉えています。

 『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』ではヒロインは自分の趣味を隠し、趣味を通した友人もあまりいないようでしたが(途中から増えていくのですが)、海夢は特にオタク趣味を隠す様子もなく徹底してオープンです。

 まだ高校生なのにエロゲをプレイしているのはどうかとは思いますが、彼女はそこに一切の「後ろめたさ」を抱いていないようです。ここら辺はほんとうに現代のオタクという気がします。

 いまはこういうの、普通にありえることなんだろうな、という気がするのですね。

 もちろん、海夢のキャラクターはかなり特殊ではあるのですが、それはそれとして。

 それにしても、海夢の造形に輪をかけて素晴らしいのが周囲の反応です。

 このクラスには海夢の他にはあまりオタク的な少年少女はいないようですが、だれも海夢の特異な趣味をバカにしたりはしません。そう、ここではあきらかに価値の転換が起こっていて、「人の好きなものを尊重すること」はもはやあたりまえの前提と化していると感じられます。

 そして、もし「だれかが好きなもの」をバカにするような人間がいたら、おかしいのはそいつのほうなのだ、ということも当然の認識と化しているのです。

 主人公である五条くんは自分の「好きなこと」である人形作りをバカにされるのではないか、と内心で恐れていますが、これはかれが個人的に思い込んでいるだけであって、事実ではありません。

 ここではハイレベルな他者の尊重がまったく当然のことのように描かれているわけです。

 ぼくの友人のペトロニウスさんはこのマンガを読むと、アメリカのハイスクールを舞台とした成田美奈子の往年の名作『CIPHER』とか『ALEXANDLITE』を思い出すといっていました。

 それくらい徹底してリベラルな雰囲気がただよっている作品だといえると思います。

 フィクションではありますが、時代も変わったものだなあ、という感慨を抱いてしまうようなマンガといえるでしょう。いや、ほんと、素晴らしい。

 傑作です。

 まあ、ここまで読まれた方のなかには未読、未見の方はいらっしゃらないかと思いますが、もしいらしたらぜひどうぞ。新しい扉が開くことは間違いありません。

◆原作はどうなっている? アニメの二期は?

 ちなみに、原作のストーリーは現在、佳境に達しているようです。

  はたして、これがほんとうに物語のクライマックスで、もうすぐ完結するのか、それともここからさらに新しい展開に入っていくのかはわかりませんが、とりあえず、いままでのストーリーはいったん畳まれるような予感がします。

 くわしいことはネタバレになるので書きませんが、五条くんと海夢の関係性もおそらくは何らかの形で変化することになるでしょう。

 また、気になるのがアニメの二期が放送されることはあるのか、仮に放送されるとしたらいつになるのかですが、きわめて人気の高い原作で、アニメのクオリティも悪くなかっただけに、おそらく何らかの形でいつか第二期も(第三期も?)やることになるのではないでしょうか。

 ぼくはいちファンとしてとても楽しみにしています。

 時代を切り拓く自由な雰囲気がただようこの一作、リアルタイムでいっしょに楽しみたいものですね。

 では。

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