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「『このすば』や『フリーレン』が心を癒やす! イタリア人精神科医が編み出した〈アニメ療法〉がいろいろ凄すぎる件。」

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 〈アニメ療法〉をご存知でしょうか? ちょっと目にした耳にしたことがあるという方はいらっしゃるかもしれませんが、くわしく知っているという人は少ないでしょう。

 それは精神医療の臨床にアニメをもちいる方法論のことで(この場合「アニメ」とは日本製のアニメやマンガ、ゲームなど広い範囲を指す)、イタリア人精神科医のパントー・フランチェスコさんという人物が考案しました。

 アニメを精神的な病気の治療に使うというと、いかにも奇異な、いってしまえば色物的な印象を受けてしまうところですが、じっさいには医療的な伝統にのっとったものであり、また、それなりのエビデンスも蓄積されてきているのだとか。

 となると、一アニメオタクとして非常に気になるわけで、そのアニメ療法の「理論編」の『アニメ療法』(968円)と、「実践編」であるところの『実践アニメ療法』(3740円!)を、先日、Amazonで、断崖から飛び降りるような気持ちで注文してみました。

 で、いま読み終えたところ。いやあ、これが、じっさい面白い。前者はともかく後者のほうは精神医療のハードな専門書ではあるのですが、しろうとにもひじょうにわかりやすく書かれていて、ただただ感心し納得するばかリ。物語には人を癒やす効果があるんですねえ。

 といっても、あくまでうさん臭いものと見る人も多いだろうけれど、さにあらず、じっさいに効果があることが確認されているセラピーなのです。

 それでは、具体的には、その「アニメ療法」はどのようなプロセスをたどるのか。これは「理論編」と「実践編」を合わせて読むと良くわかるのだけれど、アニメ作品のなかに患者自身の人生を重なる「ロールモデル」を見出し、そのモデルと比較しながら患者の問題の解決を求め対話を続けていくのですね。

 ただ、それは何の作品であっても良いわけではなく、たとえばいわゆる「なろう系」「無双系」などといわれる作品はあまり適さないらしい。

 まあ、それもよく考えてみればわかる話で、ひたすらに無敵の活躍を続けるヒーローの物語を見ても自分の人生とくらべて参考にしようという気にはならないでしょう。

 だから、「なろう系」ではあっても、たとえば人生の普遍的な悩みがさんざん描かれる『無職転生』あたりは参照可能ということになるかもしれない。

 『実践アニメ療法』を読んでいていまさらながらに驚かされるのは、取り上げられているのが『葬送のフリーレン』や『DEATH NOTE』など、ほんとうに身近な作品であることです。

著:山田鐘人, 著:アベツカサ
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著:大場つぐみ, 著:小畑健
¥460 (2024/09/28 09:27時点 | Amazon調べ)

 この本のなかで患者たちはフリーレンや夜神月といったキャラクターたちに自分を重ねて少しずつ心を癒やしていくのですね。

 優れたアニメやマンガには傷つき、壊れかけた人の心を癒やすだけの力がそなわっているということ! これを素晴らしいといわずして何というべきでしょう。

 物語とは、ただ一とき娯楽として楽しんで放り投げるだけのものではなく、もっと心の奥深いところに訴えかけてくることができるものなのだということがわかります。

 たとえば、『葬送のフリーレン』を読み進めつつ治療を受けていくのは、じっさいに夫を亡くした女性です。彼女は物語のなかでフリーレンが何を考え、どうヒンメルを喪った哀しみを受け止めているのか想像してゆきます。そして、少しずつ前向きさを快復させていくのです。

 ただ、いくら一定のエビデンスがあり、また、「物語療法」、「映画療法」などの先行研究があるとはいっても、そう上手くいくものだろうかと疑問を抱く人もいるかもしれません。

 じっさい、いつもいつも上手く患者はアニメのキャラクターに自分を重ねられるものではないでしょう。また、仮に重ねられたとしても、だから精神状態が快癒するとはかぎりません。それは当然のことです。アニメ療法は万能ではないに違いないでしょう。

 ですが、じっさいに物語に助けられ、それを重い体を支える杖のようにして生きてきたぼくとしては、やはり「アニメ」の持つ力を信じたいのです。

 それは、微力であるかもしれない、儚いものに過ぎないかもしれませんが、たとえば『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を観て傷ついた主人公の心を想う患者の姿を見ると、「ああ……」とことばにならないような感慨を覚えます。

 物語が人にあたえる影響とは、なんと深く、また偉大なものなのでしょうか。

 また、取り上げられる作品が必ずしもシリアスでヘヴィなものとはかぎらず、『この素晴らしい世界に祝福を!』のようなライトタッチのコメディも含まれているところも面白い。

 大切なのは患者が参考にできる理想的な、あるいは反面教師的な姿がそこに描かれていることであって、「現実的」なストーリーならそれで良いというものでもないのです。

 アニメ療法の可能性はひじょうに大きなものがあります。このばあいの「アニメ」でなくても、なにげなくふれた物語に優しく癒やされたり、人生の指針を教えられたりした経験がある人は少なくないでしょう。

 そういう意味で、「アニメ」はもともと人を癒やし、巣食うだけのポテンシャルを秘めているのです。アニメ療法はただその眠れる可能性をひき出しているだけに過ぎないのかもしれません。

 ただ、ひとりではなかなか疲れ切ったとき、傷つき苦しんでいるときに「アニメ」の登場人物から生き方を学ぼうという気にはなれない。だから精神科医はそこをサポートするわけなのですね。

 あらためて「アニメ」の持つ大いなる力を実感させられる二冊でした。とてもお奨めなのでぜひ読んでみてください。

 できれば具体的な臨床例が掲載されている『実践アニメ療法』のほうまで読んでみていただけると良いでしょうが、何しろ高いので、まずは『アニメ療法』を読まれると良いかと思います。「アニメ」と物語が持つ豊饒なる可能性が良くわかることでしょう。

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この記事を書いた人

 同人誌サークル〈アズキアライアカデミア〉管理人。 マルハン東日本のウェブサイト「ヲトナ基地」にて継続的に記事を発表しています。

 このブログではアニメ、マンガ、小説、映画などサブカルチャーネタを中心に、さまざまな情報を発信中。常時、文章を発表できるお仕事、メディアを募集しているのでよろしくお願いします! ご連絡は〈kenseimaxi(あっと)mail.goo.ne.jp〉まで。

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